相談援助技術の記事でも少し触れましたが、面談の場面ではミラーリングを行うと、ラポール(信頼関係)が築きやすいといわれています。
相手の表情をまねたり、行動をまねたりする技法ですが、これは認知症ケアの技法であるバリデーションの中でも使用されています。
ミラーリングとは??
心理学の用語で「同調効果」といわれています。
動作だけでなく、言語(発言)や声のトーン、呼吸などにも応用することが出来ます。
相手が言った言葉を繰り返して伝えることをオウム返しともいいます。
ミラーリングとは、自分が相手にとって写し鏡のような存在になることです。
ミラーリングの効果とは??【ミラー効果】
☆相手との同調が起こることで親近感がわきやすい
☆親近感がわくと、それは好意に変わりやすく、信頼関係が築きやすくなる
人は相手と自分との共通点を見つけると、嬉しくなったり安心したりする傾向にあります。
よく知らない相手でも、無意識のうちに何か共通の話題を見つけようとしたり、趣味が同じであることを知ると、急に親近感を覚えて、話題に花が咲くことがありますよね。
逆に、相手と自分はノリが違うとか、趣味も全く合わない、共通点が一つもないとなると、「この人とは分かり合える気がしないな・・・」という感じることもあると思います。
ミラーリングは、自分が相手の写し鏡のような存在になることで、テンションやノリを合わせたり、表情や動作、言語を合わせたりすることで、なんだか似た者同士だなという感覚を無意識のうちに刷り込むことができるテクニックです。
好意や親近感⇒相手と同じ動作をしてしまう
相手と同じ動作をする⇒好意や親近感が生まれる
親密な関係になると、相手と同じ動作をすることが自然と多くなります。
自分が好意を抱いている相手と同じ動作をしてしまうことなどもミラー効果であるといえます。
こういった、好きな相手に対して自然に行ってしまうこともミラーリングといいますが、対人援助や人間関係を形成していくような場合には、一つのテクニックとして相手に好感をもってもらうために、意識的にミラーリングを使用していきます。
ミラーリングの事例・具体的なやり方とは?
食事の場面で
・人と一緒にごはんを食べる時に、自分が先に食べ始めるのではなく、相手が食べるタイミングで一緒に食べる
・相手が食べたおかずと同じおかずを食べる
・相手と同じタイミングで飲み物を飲む
食事中ずっと相手と同じ行動をすると、あからさまに不自然になり、相手に真似しているということがバレてしまいますので、時々真似してみましょう。
面談や日常会話の中で
相手の姿勢を真似る
相手が身を乗り出したら、こちらも身を乗り出す
姿勢を正していたら、こちらも姿勢を正す
リラックスしているような姿勢の場合は、こちらもリラックスする
表情を真似る
悲しい表情、怒りの表情、笑顔など
その方の感情に合わせて、自分も表情を合わせていくと、相手は気持ちを共有してもらえているという安心感をもつことができたり、自分の感情を映し出している目の前の人(相談者)の表情を見ることで、自分のことが客観的に見えるようになることもあります。
呼吸
呼吸の速さや大きさ(深さ)を合わせる
人は緊張している時には呼吸が浅く、早くなり、リラックスしているときには深く、ゆっくりになります。
呼吸を合わせることで、相手の心情や状況を察することができるようになります。
しぐさ
相手があごに手をやったら、こちらも顔付近に手をやってみる
相手の癖を取り入れる
話をしているときにニコッと笑って首を傾げたり、身振り手振りを使って話をしたり、その人の癖を見て、さりげなく自分が話をするときにも取り入れる
言葉
相手が言った言葉をそのまま繰り返し伝える
「素敵だね」「素敵ですね」
認知症ケアにも使えるミラーリング
ミラーリングはバリデーションのテクニックの一つとして紹介されています。
認知症の深まった方は、ご自分の世界を作って、その中で自分の居場所を見出している方がいらっしゃいます。
例えば、テーブルの上で何かを選り分けたり、捕まえたりする動作を繰り返しされる方
周りの人から見れば、「この人は一体何をしているのだろう??」と、意味のない行動をとっているように見えるかもしれません。しかし、その方は長年、港に着いた魚を選り分ける仕事をしていたという職歴がありました。
その方の向かい側、あるいは横に並んで、一緒に自分も同じ表情で同じ動作をしてみると、その方がとても一生懸命に、集中して行っていることがわかったり、それはとても大変な作業であることがわかったりします。
その方の気持ちが少しでも理解できることで、その方に対し、「こうやって、一生懸命働いてこられたんですね。」という言葉をかけてあげることができます。
周りの人から見ると、意味のないような行動をとっているように見えるかもしれませんが、その方からすると、今現在もがんばり続けているのです。
そして周りの人が、その方の行動を肯定したり、肯定的な声かけをすることで、その方は存在を認められる経験をすることができます。
『一生懸命がんばっている』ということを誰かに認められることで、フッと気が緩み、涙を流されたり、安心したような表情を浮かべられる方もいます。
バリデーションにおけるミラーリングは、相手と同じ表情、呼吸、動作をすることで、相手の気持ちを理解することに役立ちます。
身体介助で使えるミラーリング
身体介助の際に使えるテクニックもあります。
それは、『その方がよく使う言語を使う』です。
例えば、高齢の方が椅子からの立ち上がる時に、自分で力を出すために掛け声をかけることがあります。
その掛け声は人それぞれ。
「よいしょ!」の人もいれば、「よっこらしょ!」の人もいる。
「いちにのさん!」で立ち上がる人もいます。
椅子からの立ち上がりの介助をする必要のある時などは、その方の普段使っている口癖や掛け声を使用すると、同調が起こり、親近感をもってもらえます。
また、本人と力を入れるタイミングが合うことで、介護者は必要以上に力を入れなくてすみ、身体介助もうまくいくことが多いです。
介助に対して拒否のあった方が、スタッフの存在を受け入れてくださり、すんなり介助させていただけるケースもあります。
ミラーリングの注意点
ミラーリングは、わざとらしくならないようにさりげなく行うようにします。
相手が真似をされていることに気が付いたら、不快な気持ちになり、親密度が増すどころか、逆効果になる場合もあります。
バリデーションを紹介された本でも、認知症の初期の段階の方には使用を避けるべきだと記されています。
中途半端に使用することで、相手のプライドや尊厳を傷つけることにもなりかねません。
特に認知症の初期の方は、人の表情や言動に敏感になられている方が多いので、「なんだかバカにされているようだ」と感じれば、不信感を抱かれしてまうことになり、その先の援助もうまくいかなくなってしまいます。
ミラーリングをさりげなく、うまくやるためのコツは?
相手と接する際に何か一つだけ、簡単なことから真似をしてみる。
終始真似をするのは、とても不自然であからさまなので、相手にも真似をしていることに気づかれてしまいます。
初めは一度だけ、簡単なことから始めてみます。
例えば、相手と同じタイミングで飲み物を飲むなどです。
相手と全く同じである必要はない
言語を真似する場合には、少しだけ言い方を変えるなど、アレンジすると不自然さがなくなります。
例えば、「昨日こんなことがあって、悲しかったのよ~」と言われた場合、「昨日こんなことがあって悲しかったのね~?」と、長々と同じことを言うと不自然になるので
相手)「昨日こんなことがあって悲しかったのよ~」
自分)「そうなんだ、悲しかったね~。 え?昨日??そんなことがあったの?」
相手)「そうなのよ。つい昨日。まさかあんなことになるとは思わなかったよ」
などと伝えると、相手に同調するとともに、会話がうまくつながって、相手の状況や感情などを深く聞きだすこともできます。
ミラーリングは慣れてくると、自然にできるようになりますが、ある程度の練習が必要です。
まずは身近な存在である家族などを相手に、練習してみてください。
また、家族や恋人と過ごすときなどに、自然と自分が同じ動作をしていないかどうかなども、少し意識してみると面白いと思います。
自分が好意を抱いている相手に対して、無意識のうちに行っている動作を意識的に確認してみることで、別の状況(よく知り合えていない人と一緒にいるときなど)でも使えるようになると思います。