認知症高齢者のパーソナルスペースは狭い?広い?

介護施設でも大切にしたいパーソナルスペース

介護職員として長く働いていると、人との距離感を見誤ってしまうことがあります。

特にご利用者との距離感です。

介護施設に入居前、自宅に面談に行ったときには、かしこまって敬語を使っていたのに、施設に入居した途端(初日から)タメ口で話しかけてしまったりするのです。

これは、ご利用者の自宅という場所が相手のテリトリーで、施設は自分の(職員の)テリトリーであるという無意識の考え方が影響しているのかもしれません。

また、初対面なのにも関わらず、ご利用者にタメ口で話しかけてしまったり、いきなりそばに近寄ったり、手を握ったりしてしまうのは、相手が認知症であるとか、高齢者であるといったことも関係しているのではないかと思います。

一般的に考えると、仕事で接するお客様(ご利用者)に初対面でタメ口を使ったり、至近距離で話しかけたりすることはとても不自然で失礼なことなのですが、それを違和感もなくできてしまうというのは、介護を必要とする人は弱者であるとか、自分よりも下の(劣っている)存在であるという、無意識のうちに働く先入観の表れなのかもしれません。

自分の『先入観や価値観』というフィルターを通して相手を見ると、誤った解釈の末、誤った行動をしてしまうことがあります。

人にはそれぞれ、パーソナルスペースというものがあります。

認知症の方でも、高齢の方でも、障害があってもなくても、他人に踏み込まれたくない領域というものがあるのです。

一般的なパーソナルスペースの概念とは

パーソナル・スペースとは、対人間(自分と相手)との距離のことです。
大きくわけて4つの対人距離があり、さらにそれぞれ近接相と遠方相に分けられています。

密接距離 ごく親しい間柄の距離
【近接相(0~15㎝)】相手に密着して触れることができ、主にスキンシップによるコミュニケーションをとることができる
【遠方相(15~45㎝)】向かい合って握手をしたり、横に建って手を握ったり、背中をさすったりできる
主な関係性 家族 恋人 親しい人 保育士 看護師 介護士

介護・看護職員もケアをするときには相手の体に触れますので、この密接距離に立ち入ることになります。
本来は、信頼関係がなければプライベートな領域に入ったり、相手に触れたりすることを許してもらえないような距離です。

個人距離 近くで会話をしたり、対話のできる距離
【近接相(45~75㎝)】相手に表情や目の動きで意思を伝えることができる、ひそひそ話ができる
【遠方相(75~120㎝)】個人的な要件の話や立ち話ができる
主な関係性 友人・知人

介護施設の相談員などは、相手との関係性が築けてくると、友人のような近しい存在になる場合があります。
しかし、専門家として客観的に相手を見る必要性もあります。
距離が近くなりすぎると、なれ合いの関係になったり、感情に左右されやすくなるので、一定の距離を保ち、感情的になり過ぎずに冷静に判断できることが必要です。

社会距離 会議や討論会、ビジネスなどの商談の距離
【近接相(120~210㎝)】相手に触れることはできないが会話は簡単にできる、ミーティングなどができる
【遠方相(210~360㎝)】テーブルを挟んで相手と向き合ったり、形式ばった商談などに用いられる距離、相手の細かい表情等は見えにくくなる
主な関係性 仕事関係などあらたまった関係

公衆距離 講義や講演、演説などの距離
【近接相(360~750㎝)】複数人を相手にして話をする、話し手からの一方的なコミュニケーションになりがち
【遠方相(750㎝以上)】大きな声でゆっくり話をしなければ、聴き手に伝わりにくくなる
主な関係性 知らない人 関係に距離のある人 公式の場(一対一の関係ではない) 教室での先生と生徒

 

パーソナルスペースが狭い人の特徴とは?

あまり知らない人なのにも関わらず、距離感が近いと感じる人がいると思います。
そういった人は、どのようなことを考えているのでしょうか。

物理的に体と体の距離感が近い人は、心の距離感も同じように近いという傾向があります。

パーソナルスペースが狭い人の特徴

・他人のことが気にならない
いい意味では、人を容易に受け入れることができる
悪い意味では、他人に興味がなく、他人のことを見ていない、自分さえよければいいと思っている

・人懐っこい、親しみやすい
誰とでも話せたり、すぐに人を受け入れられる

・自己肯定感が高い
自分のことが好きで自らを認めている人は、他人からも自分は受け入れられると考えている
逆に自己肯定感が低い人は、自分は人から認められないとか、自分なんて相手に受け入れられるわけがないなどと思い、人と一定の距離を置く傾向にある

・空気がよめない
他人の表情や行動を見て、それがどのような意味を含んでいるのか理解ができないので、他人との距離がうまくつかめない

パーソナルスペースの調べ方

以前、研修で『自分のパーソナルスペースを調べてみよう』という体験をしました。

近くの人と二人一組になって、自分はその場から動かず、相手に一歩ずつ近寄ってきてもらいます。

そして、心地いいと感じる距離でストップと伝える。

ペアが同性同士かそうでないかにもよりますし、個人的な感覚によっても、パーソナルスペースの距離は様々です。

ちなみに私は、そのときの相手が見ず知らずの異性だったということもあり、かなり広く自分のパーソナルスペースを確保していました。

そのわけを自分なりに考えてみたのですが、相手のことが嫌で近づいてほしくなかったということではなく、人見知りで自分に自信がなかったため、あまり近くに来てほしくないという気持ちが働いていることに気付きました。

パーソナルスペースを広くとるというのは、自分自身に原因があるのか、それとも相手に原因作ってしまっているのかは、その時々の状況や個人的な性格等で変わると思います。

しかし、あまり広くスペースを取りすぎるのも、相手にとっては失礼な態度だったなと少し反省しました。
私の場合は、私自身の性格によるものだったのですが、相手には私の考えなんてわからないので、「嫌がられているのかな。。。」という余計な心配をさせてしまうこととなってしまったからです。

自分の行動が誤解を招き、相手を傷つけることもあるのだということを知りました。

無意識のうちにしている自分のパーソナルスペースを守る行動

相手の感覚では普通のことでも、自分の感覚では窮屈さを感じてしまうことがあります。

電車やバス、エレベーターなど、公共の場で他人と密接な距離になってしまうとき、人は自分のパーソナルスペースに、他人が入ってこないように無意識のうちに防御策をとることがあります。

例えばエレベーターでは、カバンを持つ手を壁側ではなく、人と接する側に持ち変える

電車やバスの座席では、腕組みをしたり寝たふりをしたり、スマホをみたりして自分の世界に入り、防御的な姿勢をとる

見ず知らずの他人の隣に座る時も、なるべく壁側に身を寄せて、隣の人から距離を置こうとする

これは、自分のパーソナルスペースに入ってこないでほしいという、無言のメッセージです。

 

特に悪気があってそういった行動をしているわけではないのですが、無意識の内に行っている自分を守る行動です。

ただ過度な態度は相手に嫌な思いをさせてしまうことにもなるので、気を付けた方がよさそうです。

認知症高齢者のパーソナルスペース

個人差はありますが、年をかさねるごとに他人を受け入れやすくなっていく傾向があります。

人に対して抵抗が少なくなってきたり、自己開示も苦ではなくなってくるので、誰にでも気軽に話しかけたりするようになるのです。

ですから高齢者は、気さくな方が多く、コミュニケーションもとりやすい特徴があります。

また、認知症の方は特に、相手が誰なのかわかっていなくても、昔からの知り合いだったかのように話しかけてくださることもあります。

そして、相手が近づいてきてくれればくれるほど、愛情を感じるという方もいます。

認知症高齢者のパーソナルスペースは狭い傾向にあるといえます(性格などにより個人差があります)。

だから、親しみやすく、介護職員は初対面でもタメ口で話をしてしまうのかもしれません。

しかし一方では、いきなり近づいてしまうと、顔をしかめられたり、体をのけぞるようにされる方もいらっしゃいます。
これは、相手を受け入れていないとか、拒否をしているというサインです。

性格は人それぞれで、パーソナルスペースに対する考え方も個人差があるので、高齢者の方と接するときも、その方がどんな人なのか、少しづつお近づきなり、その人の空間を大切にしていけるといいですね。

また介護施設を利用している高齢者に対し、『介護施設のご利用者』というフィルターではなく、『一人の人』として、『目上の方』とか『人生の先輩である』といった見方ができれば、相手を尊重したり尊厳を守るような行動ができるようになるのではないかなと思います。



  
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