認知症の人に対して、『適当な嘘をつかない』
だけど、認知症の人が抱いている世界に付き合い、真剣に役割を演じるということは必要だと思っています。
適当な嘘をつくことと、相手の世界に合わせて演技をすることはどう違うのでしょうか??
嘘をつくことと演技をすることの違い
適当につく嘘は、相手のことではなく、職員である自分がラクになりたいがためにつくことが多いように感じます。
相手の世界に職員が合わせるというよりも、職員が都合のいい世界を作り、それにご利用者を誘導している。
職員として、どうこの場を切り抜けるか、認知症の人が執着していることに対して、どうはぐらかすかということが目的となっている。
職員である自分がラクになりたいがための嘘。
演技をすることは、相手の抱いている世界に合わせて役割を演じること。
相手が望んでいることを、職員である自分が引き受けることではないかと思います。
相手(認知症の人)の心がどうすれば納得できるのか、どうすればホッと安心できるのか、それを目的としています。
お財布を探している人に対して、本当はどこにもない(実際はお財布を持っていない)ことがわかっているのにもかかわらず、相手が一緒に探して欲しいと(無意識でも)望んでいるのであれば、一緒になって真剣に探す。
お財布が見つかることで安心する場合もあれば、たとえお財布が見つからなくても、一緒に探してくれる、心配してくれる人がいるという『人の存在』で心が安心される場合もあるからです。
相手の世界に合わせるということを、「認知症の人に嘘をついてもいいのか?」「相手をバカにしているように思える」という意見もありますが、それは目的と、自分の行動(ふるまい)次第なのではないかと思います。
誰の為に、自分は何をするのか?
職員である自分がラクになるためにその場しのぎの嘘をつくのか、ご利用者の心がホッと安心できるために、その方が望んでいる言葉をかけるのか、そういった目的の違いがあります。
言葉の伝え方
認知症の方が突発的に言われる言葉や行動に対し、どのように反応してお付き合いしていくのかは、相手の安心感に大きく影響します。
表情、声のトーン、真剣さ、思いやり、全てがご利用者に伝わります。
そういった職員の態度を見て、安心感を覚えられます。
逆に・・・
半笑いで伝える軽い言葉
説得
欺く態度
こういった言葉や態度は、認知症の方からするととても受け入れがたく、信用することができません。
イライラしたり不安に思ったり、人に対しての不信感にもつながります。
認知症の方でなくても、誰だってそうですよね。
例えば私たちも買い物に出かけて、何か困ったことがあったときに、声をかけた店員さんに適当な対応をされたら、とても嫌な気持ちになると思います。
困ったときは、親切にしてもらいたですし、助けてもらえると心がホッとしますよね。
困っている本人は真剣なんです。
だからこそ、役になりきって真剣に演じる必要がある。
言葉、表情、態度に気をつける必要がある。
そして、相手が必要としている存在になりきる。
なんとか相手を言いくるめようとして言う言葉と、その方を安心させようとしてかける言葉には、聞こえ方に違いがあります。
その場をなんとか収めようとする適当なウソは、不思議なことに見破られることが多いのです。
声のトーンや表情などから、嘘をついているとわかってしまうのかもしれませんね。
また、嘘をつかずに、真実を伝えたとしても、納得していただけないことは多々あります。
相手を説得しようとして、無意識のうちに抑圧的になっているのしれません。
「都合のいいことを言っている!」と、イライラが強くなってしまうこともあり、職員に対する不信感も高まってしまいます。
相手の世界を探る、想像する
相手が何を望んでいるのか、相手の世界を探り、職員である自分にどのような接し方をしてもらいたいと考えているのかを想像してみましょう。
また、話の聴き方次第で、職員の方から言葉で誘導しなくても、その方の言われる言葉を繰り返し伝えたり(オウム返しや要約)、質問して確認したりすることで、その方の世界に入っていくことができます。
自分か伝えるよりもまず先にしなければならないのは、相手の話を『聴く』ということです。
認知症ケアは自信がなくてもいい
認知症ケアに携わっている方で、自分が日ごろやっていることが、いいことなのかどうか、戸惑ったり悩んだりしている人も多いのではないかと思います。
そんなときは、目的は何かを考えてみてください。
職員としての自分がラクになりたいから適当な嘘をつくのか
その方の不安がどうすれば和らぐのかに徹した結果、嘘(その方の世界)に付き合うのか
また、戸惑ったり悩んだりすることは、結果、認知症の方にとってはいいことのようにも思います。
開き直って、自分は正しいことをやっていると自信満々でいるよりも、本当にこれでいいのだろうか?自分のやっていることは正解なのだろうか?と振り返り、考え、悩むことの方が、よっぽど相手のことを考えていると思いますし、それは必ずいいケアにつながっていくと思います。
自分が日ごろやっていることというのは、ご利用者との信頼関係という結果に必ず現れてきます。
答えは全て、ご利用者が教えてくれます。