認知症の人と約束をするということ

職員の都合で利用者に応えられない事例という記事では、ご利用者の”今、この瞬間”の想いに応えることが大切であるというお話をしました。

【認知症介護】職員の都合で利用者の気持ちに応えられない事例

2018.09.04

しかし介護施設では、時間帯や職員の勤務状況によっては、ご利用者の気持ち(要望)にどうしても応えられない場合もあります。

「出かけたい。」とか「帰りたい。」とか言われても、すぐに出かけることは難しい。

また、忙しい介護施設などでは、ご利用者から頼まれる小さなお願い事でさえも、「ちょっと待ってくださいね。」と伝えて、そのまま放置・・・なんてこともあるのではないでしょうか。

ご利用者の気持ちにすぐに応えることができない。

忙しい介護職員として接すると、どうにかして、出かけなくてもすむ方法を探してしまうと思います。

そういったときの言葉は、素直に「今は出かけられないんです。」と言ってしまうかもしれませんし、「車がないから出かけられません。」なんて、本当は車もあるし運転できる職員もいるのにも関わらず、適当な嘘をついてしまうかもしれません。
ご利用者に諦めてもらうための言葉を伝えてしまいます。

 

忙しい介護職員としてではなく、一人の人間として、目の前の人の気持ちにどうすれば応えられるかを考えると、かける言葉も変わってきます。

自分の目の前にいる人の想いの実現に向けて、真剣に考え行動するということが、人として真摯に向き合い、誠実に接するということなのではないかと思うのです。

”今、この瞬間”の気持ちに応えられない場合は、約束をします。

「今すぐは難しい。」ということを正直に伝えてお詫びし、でも何時ならできるとか、何日ならできるとか、希望に応えられる日時を伝えて必ず実現に向けて動きます。

日常の小さなお願い事でも、「ちょっと待ってくださいね。」とスルーせずに、「後で必ずお部屋に伺いますね。」と伝え、今やっていることが一段落したら、必ずお話を聞きに行きます。

約束は果たすことを前提とした約束です。

 

よく、「帰りたい。」というご利用者に対して、「明日になったら帰れるから、今日は泊まっていって。」と声をかける職員さんも多いと思います。

この場合、本当に明日家に帰ることができるかというと、そうではありません。

これはその場しのぎの適当なウソです。

もしも人として真摯に向き合った結果、「明日帰れる。」という言葉を使うのだとしたら、本当に翌日、家まで送って行くくらいの気持ちで伝えます。

そうでなければ、相手には真摯な態度は伝わりません。

家に帰りたくて困っている自分(ご利用者)に対して、職員さんが真剣に向き合ってくれているとは思えないからです。

 

なぜ認知症の人に対して、簡単に嘘をついてしまうのかというと、認知症の人は約束をしても忘れてしまうことが多いからです。

だから職員は、その場しのぎの嘘を簡単についてしまうようになるのです。

認知症の人は約束を忘れてしまう

認知症の人と約束をしても、翌日になってみると、その約束を忘れていることがほとんどです。

では、なぜそのような約束をするのかというと、今すぐにはできないけれど、明日であればできるという希望をもってもらうことができるからです。

希望があれば、「それじゃあ、一日ぐらい我慢しようか」となります。

家に帰るのを諦めて、しょうがなく施設にいなければならないのか、明日帰れるんだから今日はここにいてもいいと、納得して施設に滞在するのとでは気持ちが大きく異なります。

不安の大きさが全く違います。

 

そして、翌日本当に家に帰る。

家に帰ることを繰り返すうちに、ご利用者は「職員さんにお願いすれば、いつでも家まで送って行ってもらえるんだ」という安心感に変わり、そのうち「施設にいても別にいいか」と思えるようになります。
(※こういった支援には、ご家族のご協力は必須です。ご家族とこまめに連絡をとり、介護職員だけでなく、ご家族も一緒になってご本人(ご利用者)を支援していくという連帯感を持っていただきましょう。協力していただける方が増えれば増えるほど、ご本人にとっては自己実現ができるようになります。)

ご本人は、次第に施設での生活を受け入れられるようになります。

生活の拠点は施設に変わったけれど、いつでも家に帰れるし、家族とも友人とも会えると思えば、不安な気持ちや寂しさや喪失感も和らいでいきます。

 

職員がご利用者の想いを実現するために動くと、ご利用者は職員を信頼してくださるようになります。

これは、『ご利用者が』とか『職員が』とかいうことではなく、もはや、人と人との信頼関係の問題だと思います。

そして信頼関係が生まれると、話に耳を傾けてくださるようになります。

お互いにお願い事を聞き入れる関係性ができてきます。

利)「家に帰る。」
職)「今すぐには難しいから、明日帰りましょう。」
利)「いや!今すぐ帰る。」

だったのが、

利)「家に帰りたい。」
職)「今すぐは難しいけど、明日なら。」
利)「あなたの都合のいいときでいいよ。また送って行ってくれる?」

となるのです。

約束を忘れていても、果たすための行動をとる

前述でもお伝えしましたが、認知症の方は約束をしても忘れてしまうことがほとんどです。

正直、忘れていてくれてラッキーと思うこともあるかもしれません。

それでも、職員の方から「昨日出かける約束をしたから、今から一緒に行きませんか?」と声をかけてみます。

そのときに「そんな約束したっけ?覚えていないけど、行ってみようか。」と一緒に出かけてくださることもあれば、「いや、行かないよ。」と断られることもあります。

断られれば、それはそれでいいのです。

どちらにしても、この時のご利用者の心の中は、不足感を感じていません。

出かけるか出かけないかを、ご自分で選択して決めることができます。

 

施設にはいたくない!という思いから「出かけたい。」とか「帰りたい。」という言葉で出かけた場合、納得して施設に戻るまでには時間がかかるかもしれません。

でも、心が安定している状態で外出した場合、その外出にかかる時間も短時間ですむことがほとんどです。

一緒に出かけることで、同じ時間や体験を共有し、信頼関係はどんどん深まっていきます。

 

出かけたくても出かけられない。

その苛立ちや不足感から、職員と明日出かける約束をすることで、その場は納得される。

そして翌日、その約束を忘れていたとしても、声をかけてみる(約束を果たす)ことで、出かけるか出かけないかを、その時の気分で、ご自分で選ぶことができる。

ご本人の心の中は、不安や苛立ち、諦めではなく、納得や穏やかさ、選択することの充実感に変わっていくはずです。

こういった些細な出来事を通しての、心の変化が、ご本人の生活全体に影響を及ぼし、生活や人生を作り上げていくのだと思います。



  
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