人は高齢になるとだんだんと食が細くなっていきます。
若いころのようにモリモリ食べられなくなるのは自然なことです。
本人にとっては自然なことでも、周りにいる人(家族、友人、介護職員など)は少しでも食べて長生きしてもらいたいと願い、食欲がなくなっていく人を前にすると、「もっと食べて~。」と思ってしまったり、つい口に出てしまったりします。
でも「食べたくない。」と言う人にご飯を食べていただくのはなかなか至難の業ですよね。
食べられなくなっていくのを受け入れるべきか、どうにか工夫して頑張ってみるか、悩むところではありますが、今回はごはんを食べられなくなる原因と対応の仕方についてお話したいと思ます。
認知症の方がごはんを食べられなくなる原因
原因①食べることを忘れてしまう
認知症が深くなると、食べ物かどうかを判別できなくなり、食べ物でないものを口に入れてしまうことがあります(異食)。
そして認識が低下してくると、たとえ本当の食べ物を口に入れたとしても、食感や味が好みでなかったりすると吐き出されたり、噛むことを忘れて丸飲みされたりすることもあります。
また、『食べる』という行為そのものを忘れてしまい、口に何かを入れるという行為自体がなくなってしまい、食べ物を口元にもっていっても口を開けられなくなることがあります。
ただ、これは認知症の方が皆そうなるというわけではありません。
重度の認知症の方でも、食事はしっかりされるという方もいらっしゃいますし、症状の表れ方には個人差があります。
食べることを忘れてしまう認知症の方への接し方
口の中に食べ物を入れたときの食感や味を重視します。
ごはんは食べられなくなっても、甘いものであれば食べられるという人には甘いものを中心に食べていただき、おいしい味を楽しむこと、噛むことや飲み込むことなど、『食べる』ということを思い出していただけるように支援します。
食べられなくなったときは、栄養を考えるよりも、ご本人の好きなもの、ご本人がおいしいと感じるものを優先に食べていただきます。
また、ごはんを口の中に入れても噛もうとしない方には、梅干しなどを一緒に食べていただくと、刺激になって噛むことを始められることがあります。
柔らかいものは噛もうとしないけれど、シャキシャキの食感のものであれば咀嚼するという方もいらっしゃいます。
『食べる』という行為は 食べ物を口の中に入れる→歯で噛む→飲み込む という動作で成り立つのですが、どの部分に問題があるのかを見極める必要があります。
噛むことはうまくできなくても、嚥下機能は強いという方もいらっしゃいます。
噛めないからといって、ミキサー食に変えたとたんに全く食べられなくなる方もいらっしゃいます。
(ただ食べ物を丸のみすると詰まる危険性があったり、消化不良で便秘になりやすいという危険性もあるので、気を付けなければなければなりません。)
だから、ミキサー食やムース食などの柔らかい食事も少し用意しつつ、何だったら食べてもらえるのか、どの程度の硬さや大きさであれば安全に食べられるのかを探っていく必要があるのです。
ごはんは口に入れても吐き出されて食べられないけれど、どら焼きなら上手に噛んで食べられるという方もいて、こちらが先入観で「これは食べられる」、「これは食べられない」を決めてはいけないのだなと考えさせられることがあります。
元気な時にその方が何を好んで食べられていたのかが大きなヒントになると思います。
そして、少し余談ではありますが、話をするために必要な筋肉とごはんを食べるために必要な筋肉は同じであると言われています。
だから口数が減ることは、食べるために必要な機能(筋肉)も低下するということです。
認知症が深まるにつれて口数が少なくなっていく人はたくさんいます。
単語がうまく出てこなかったり、言葉が言葉にならなかったりするぐらい認知症が深まると、ごはんを食べる(噛む+飲み込む)が難しくなっていくことがあります。
食べる筋肉を維持したい場合は、なるべく元気なときからおしゃべりをしてもらう、声を出してもらうように支援していくといいと言われています。
原因②精神的な要因で食べられなくなる
なにか悲しいことがあったり、ショックを受けたり、不安なことがあると食事が喉を通らなくなるという場合があります。
これは認知症に関わらず、もともとの性格が大きく影響していることがあり、どんな時でもごはんだけはしっかり食べられるという人と、ちょっとしたことでごはんが食べられなくなる人と、ストレスに対する反応の仕方は人それぞれです。
精神的な要因で食べられなくなった認知症の方への接し方
食べる、食べないに固執せず、まずは精神的な要因(悲しみ、不安、ショックなど)を取り除くことから始めましょう。
どんなことで悲しさを感じるのか、不安やショックを感じるのかは人それぞれです。
でもそれを癒すのは人や動物など、命あるものだったりします。
悲しみに寄り添い、優しい言葉をかけてあげたり、何も言わずに背中をさすってあげたり、少しでも気持ちが和らぐように接します。
悲しさの渦中にある人が食事を拒むということは、生きることを拒んでいることと同じだと思います。
本人は口にしなくとも、「もう生きていたくない」という思いがあるから、「食べたくない」になってしまうのではないでしょうか。
だとすると、まだここで生きてもいいかなと思えるように周りの人が支えてあげられるといいですよね。
精神的な要因で食べられなくなった人には、外食をすると気分が変わることがあります。
その方の性格にもよりますが、子供が好きな方であれば、子供が多くいるようなショッピングモールのフードコートに行ってみたり、その方の好きな人たち(家族や友人)が集まって個室でゆっくり食事をしてみたり、手作りのお弁当を持ってお花見やピクニックをして太陽の下でご飯を食べたり・・・。
食べることに関連して楽しい思い出作りをすると、それが普段の食事にも影響して食べられるようになることもあります。
病院の先生に相談してみると・・・
うつ病などの精神的な病気が原因で、慢性的に食事がとれなくなってしまった方には、うつ改善のお薬が処方されたり、食欲を増進させるような漢方薬が処方されたりする場合があります。
ただ、うつ病などの薬は、食欲(意欲)が出るように活気付ける作用があるので、人によってはテンションが高くなったり、興奮することが増える場合もあります。
食欲不振でお薬を使用する場合は、病院の先生とよく相談して、漢方薬などから始めてみるといいかもしれません。
薬は心や体に大きく影響をもたらすこともあるので、ご本人の状態をよく観て、慎重にすすめていきましょう。
原因③脱水や風邪などの身体不調で食べられなくなる
体の調子が悪い時には、食欲はなくなってしまいます。
若くて元気な人であれば体の調子が元に戻った時にまたすぐにごはんが食べられるようになるのですが、高齢者の場合は一度ごはんが食べられない時期が来ると、そこからまた元のように食べられるようになるのは難しい場合があります。
例えば風邪症状は治っても食欲不振は続いたり、元気がなくベッドで寝て過ごすことが多くなったりすることがあります。
一回の風邪で体重が大きく減ってしまい、体力がなくなってしまうことは少なくありません。
だから、予防が大切なんです。
脱水症状を起こさないように、風邪をひかないように・・・。
実際は、認知症が原因でごはんが食べられなくなるというよりも、脱水や風邪という体の不調が原因でご飯が食べられなくなる場合の方が多いので、言い換えれば日頃の体の調子をしっかりと整えるということが『食べる』ということを維持することにつながります。
また体の調子を整えるということは、認知症状を予防・改善することにもなります。
身体不調が原因で食べられなくなった認知症の方への接し方
実際に脱水を起こしたり風邪を引いた場合は、食事はどのようにするのかというと、これもやはり本人の好きなものや食べられるものを食べていただきます。
おかゆがいいという人もいれば、うどんやにゅうめんがいいという人もいます。
あんぱんなら食べられるという人もいます。
また、ごはんではなくゼリーやヨーグルト、アイス、プリンやバナナなどから始めて、少しずつ食べられるものを増やしていくこともできます。
食事がとれない時には、食べることよりも水分をしっかりと摂るということを優先しましょう。
あまりにも食事や水分をとられない場合は、病院の先生に相談すると、点滴を打ってくださったり、栄養補助食品を処方してくださることもあります。気になる症状があれば早めに主治医の先生に相談しましょう。
原因④特別な原因はなくても食べられなくなる(自然な老化)
加齢に伴い、食事の量はだんだん減っていきます。
空腹感を感じなかったり、ご飯がたくさん盛ってあるのを見ただけで、「もう、おなかいっぱいで食べられない・・・。」となってしまうこともあります。
食欲のない方に対しての接し方
食欲がないときには、食卓に並んだごはんを見ただけで「うわ・・・」と圧倒されてしまうので、食事の盛り付けを少量ずつにします。
「残してもいいからね。」と普通に盛るのではなくて、初めから少量ずつ盛って、見た目の圧迫をなくします。
あまりにも食べられない時には、わんこそば形式で、小皿に一口で食べられるくらいの小さなおにぎりをのせて、一つ食べられたら、またお結びをのせた小皿を置く、というふうにすると、次から次へと食べられることもあります。
おかずを食べられない時には、おむすびの具として入れたり、炊き込みご飯や混ぜご飯などで、少しでも食べていただけるように工夫します。
また、巻きずしや手巻き寿司などを作った時は、「作ってみたんだけど、味見お願いできますか?」と伝えてお渡しすると、食べて下さることもあります。
他のみんなと一緒の時間にご飯は食べないけれど、ひとあし早く、『味見』という形で、「人にお願いされたから食べる」ということをしてくださる方もいらっしゃいます。
まとめ
医療でなければできないこともあれば、介護でできること、介護だからこそできることもあります。
その方が何が好きで、何だったら食べられるのか、それを知っているのは一番近くにいて、その方の日頃を見ている人たちです。
身近にいる人たちの工夫次第で、食べられなかった人が食べられるようになることは大いにあります。
食べられなくなることを自然なことだと受け止めるのも大切なことなのかもしれませんが、まだできることがあるとするなら、それをやってみてからでもいいのかもしれませんね。