さっき一緒にお昼ご飯をたべたばかり。
それなのに、「ごはんはまだ~?」と言われたら、どのように答えればいいのでしょうか?
認知症の深まり方によっての違い
まず、認知症の深まり方によって、相手の言葉に違いがある場合があるので、初めにそのことをお話させてください。
認知症が軽度の方は、ごはんを食べたような気がするけれど、食べたかどうか自信がないという場合が多いので、「ごはん食べてないんだけど!」と言われるよりも、「ごはん食べたっけ?」と聞かれることが多いです。
その場合は「食べましたよ~。」と正直に伝えると、「やっぱり食べたよね?変なこと聞いてごめんね。」と言われたり、「あ、そうだっけ?」とすんなり受け入れてくださることもあります。
でも認知症がだいぶん深まってこられた方は、ごはんを食べたことを完全に忘れていることが多いので「ごはんまだ?食べてないんだけど!」と聞いてこられます。
ご飯を食べていないという相手の世界が完全に確立されているかそうでないかによって、こちらも対応を変えていきます。
「ごはんまだ?」と聞かれたときの対応
接し方その①
とりあえず「さっき食べましたよ?」と、さらっと本当のことを伝えてみる。
そうすると、「あ、そうだっけ?」と受け入れてくださり、そこで終わることもあります。
認知症の基本的な接し方では、相手の世界を否定せずに相手の世界に寄り添うことが大切ですが、認知症の深まり具合や、本人と介護者の関係性によっては、本当のことを伝えることもありだと思います。
最初に「さっき一緒に食べたよ~。」と伝えてみて、「覚えてないけど、あんたがそう言うのならそうなんだろうね。」と受け入れてくださる場合、相手はあなたのことを信頼しているのだと思います。
ただ、信頼関係が築けていても「いいや!私は食べていない!ウソつくな!」となることもあるので、その時その時の相手の心情とお付き合いしていかなければなりません。
本当のことを伝えてみて、「いいや、食べてないよ!」と言われたら、「ごめんなさい、私の勘違いでした。」と丁寧に謝ります。
このときに「いや、食べましたよ!!」と対抗してしまうと、バトルが勃発してしまいます。
接し方その②
「まだ食べてないよ~!」と言われた場合・・・
相手の表情や言動から、明らかに『ご飯を食べていない』という相手の世界が確立されている場合は、「さっき食べましたよ?」と言うと「バカにして!」怒られることもあるので、その場合は、
「ごめんなさいね、遅くなって。今準備していますからちょっと待っててくださいね。」と伝える。
そして、本人が望むのであれば、お菓子やパンなどで当面の空腹(気分)を満たしてもらいながらも、何が食べたいかなどを聴いてみたりして、相手の話を聴くように心がけます。
そうすると話の流れから別の話題へと変わり、相手が本当に求めているもの(食べ物でなく別のこと)がわかる場合があります。
それはすぐに応えられるようなことではないかもしれませんが、日ごろの関わりに大きなヒントを与えてくれるものになりますので、心に留めておくようにします。
また、じっくり話をしたことで満足されることもあり、ごはんのことは忘れられる場合もあります。
接し方その③
お菓子やパンなどを食べてもらっておいて、当面の空腹(気分)を満たしてもらった後、ごはんの準備にまだ少し時間がかかることを伝え、なにか気分転換になるような、熱中できることをしてもらいます。
自分は料理の準備をしなければいけないので、他に誰か一緒にいてくれる人がいれば、その人にそばにいてもらい、一緒に過ごしてもらうとよいと思います。
ここでのキーポイントは「当面の空腹を満たしてもらう」・・・ことではなく、その後の「人と一緒に過ごす」ということにあります。
これについての解説はあとで行いますね。
先ほどの接し方と少し似ていますが、何か熱中できることをして気分転換を行うことで、ごはんのことは忘れられることもあります。
接し方その④
「せっかくごはんを食べるのに、その前にお菓子なんか食べない!早くごはんを食べさせて!」と言われた場合は、もう一度食事をしてもらう。
二食分食べて何か問題でしょうか??
カロリー制限がある人は問題ですよね。。。
ただ、さっき食べたんだからもう食べなくてもいいとか、食べちゃダメ的な考え方って、どうにかして食べ物から気をそらしたりして、食べさせないようにするために相手を説得することになりますよね?
食べ物から気をそらす行為や説得って、お互いにとても疲労します。
だったらもう食べてもらえばいいんじゃないかなと思うのです。
二食分食べて何か問題でしょうか?(カロリー制限のある人は問題ありですが。。。)
ただ実際は、すでにさっきごはんを食べているので、お菓子やパンを出したところで、もう一食ごはんを出したところで、食べようとしても、「なんだかおなかがいっぱい。」「なんだか食欲がわかない。。。」と少しだけ食べて残されることがほとんどです。
なかには過食気味で、いくらでも食べられるという人もいますが。。。
さっき食べたんだからもう食べちゃダメというこちらの常識を押し付けない。
こちらの常識のものさしで相手を見ると、相手が間違ったことをしているように見えるかもしれないですが、相手に付き合っていけばいいのではないかなと思います。
相手の世界ではごはんを食べていないということが正しいのだから、それにお付き合いしましょう!
相手は自分の要求に対して、この人はどこまで付き合ってくれるのか?どこまで応えてくれるのか?ということを、意識はしていなくても、しっかりと見て感じているように思います。
接し方その⑤【番外編】
自分がご飯を作る役割ではない場合は、「私もおなかすいた~。何も食べてないんですよ~。ごはん早くできませんかね~。」と本人と同じ立場になってみる。
これは、お嫁さんとお姑さん(お舅さん)の関係だとちょっと難しいかもしれませんが、介護施設などで第三者がご飯を作る場合は、相手と自分は同じ立場(仲間)になれるわけです。
むしろ私の方が飢餓に苦しんでいますよ的なアピールをすると、自分のことはそっちのけ(忘れて?)「大丈夫?」と心配してくださったりします。
さっきまで「早くご飯出せ!」と敵のような存在だったのに、心配してくれて・・・優しいですね。
同じ立場になって同調するというのは、気持ちの共感につながります。
なぜごはんを食べたのに食べていないと言うのか?
単純に食べたことを忘れている場合もあれば、過食のような状態で、何かを食べたくて仕方がないという場合もあります。
脳の障害により、満腹中枢がうまく機能していないということも考えられますが、「ごはんを食べていない!」という訴えは、ずっと続くわけではないので、脳の機能障害であると考えるよりも、精神的なことが要因で起こる過食と考えてアプローチをした方が早く解決します。
過食は一種のストレスです。
欲求不満がたまっていると無性に食べ物が欲しくなります。
どんなストレスが食べることに影響しているかというと、一番多いのはさみしさです。
よく介護施設に入居になると、家では小食だった方がさみしさのあまり過食になって、一気に体重が増えてしまうということがあります。
ご家族の方から「ここの食事はおいしいんでしょうね~」なんて言われたりしますが、そうではないんですよ。
さみしくてさみしくて、食べても満たされないのです。
その場合は、食べることを抑止しないということと同時に、その方のさみしさにどう寄り添っていくか、さみしさをどう軽減するかということを考えてアプローチをしていきます。
食べ物だけ渡していても、根本的な問題は解決しないんですよね。
食べ物では本当にその人が求めていることは満たされないのです。
その人が本当に求めているものは食べ物ではなく、『人』だから。
だから上記の接し方は、実はその場しのぎの対応でしかないのです。
その場をいかに穏便に切り抜けるかしか考えていない対応策なのです。
本当に大切なのは、その人にとって安心できる豊かな人間関係を作ること。
食事を食べたか食べていないかという場面での勝負ではなく、日頃の関わりが大切なんです。
食事とは全く関係のないところで真剣に向き合い関わり合うことで、この食事の問題(過食や食べたか食べていないか)が解決することがあります。
精神的なストレスが原因で起こる過食は、さみしさが軽減するとおさまる場合がほとんどです。
ただ、もともと食べるのが大好きな方や大食いの方もいらっしゃるので、以前と今とを比べてみてどうなのか?環境の変化はなかったかどうかなど、見極める必要はあると思います。
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