認知症の人への接し方【タブー編】という記事では、認知症の人に対して否定したり注意したりすることはしない方がいいですよというお話をしました。
では、認知症の人の言動や行動を否定することは、どんな場合においても絶対にいけないのでしょうか?
答えは「いいえ。」です。
時には相手の行為を止めなければならない場合もあります。
でもその前にまず、なぜ相手の考えや行動を否定しない方がいいのかということについてお話しましょう。
なぜ認知症の人の行動を否定してはいけないのか?
ごはんを食べたのに食べていないというおばあちゃんの頭の中という記事でもお伝えしましたが、認知症の人が経験している事実とその周りにいる人たちが経験している事実には違いがあります。
それは、記憶障害によって実際には経験したことが、認知症の人にとっては経験していないことになっているからです。
経験していないことをいくら言われても、当の本人は「???」と混乱するばかりですよね。
また、判断力の低下により、正しいことなのか間違っていることなのかが判断できなくなってしまいます。
例えば、ついつい食材を買い過ぎてしまったりするのも、家の冷蔵庫に何があるのかを忘れてしまったり、食べきれる量がわからなくなってしまうからなんですね。
本人は「必要なもの」として、同じものを何個も買ってしまうのです。
介護者には介護者の思いがあり、本人には本人の思いがあります。
介護者は正しいことを伝えようとしますが、それを聞いて「はい、わかりました。」とすんなり受け入れてもらえるケースは少ないと思います。
それは、認知症の人には認知症の人の世界があり、その世界の常識にしたがって行動しているからです。
一般的な日常でも考え方の違う人と言い合いになったり、分かり合えなかったりした経験はないでしょうか?
お互いがお互いの意見を押し通そうとしても、なかなか分かり合うことは難しく、そのやりとりは結構しんどいですよね。。。
認知症の人に対して頭ごなしに行動や言動を否定しても、「なぜわかってくれないんだ?」「なぜそんなことを言うんだ?」と、つらくて悲しい感情が芽生えてしまいます。
そして悲しさは怒りに変わっていきます。お互いに。。。
強く否定や指摘を繰り返すたびに、相手も悲しさや怒りを感じています。
悲しさや不安や怒りが強くなってくると、ストレスも強くなり、認知症はどんどん進んでしまいます。
だから、相手の世界をわかろうとする努力が必要なんですね。
認知症の人の行動を否定してもいいとき
でも時には行動を止めなければならない場合もあります。
買い物のし過ぎで本人の経済状況が脅かされたり、高熱でフラフラなのに外に出かけようとして生命が脅かされたり・・・。
本人にとって不利な状況になる場合や、危険な状況になる場合には、いくら本人の気持ちを大切にと言っても、ストップをかけなければなりません。
そんなときに大事にしたいのは、相手が納得できるかどうかです。
先に行動を否定していいと書きましたが、正確には『いい方向へ方向転換する』です。
頭ごなしに否定をして説得しても、本人が納得していなければイライラしたり悲しくなったり、そこにある感情は諦めです。
説得をして諦めさせるのではなく、どうすれば納得してもらえるのか、言葉や条件を探す必要があります。
説得して行動をやめさせるのと、納得して行動をやめさせるのとでは、『行動をやめる』という結果は同じでも、相手の感情には大きな違いがあります。
本人の中で納得できたら、抱く感情もその先の行動も変わってくるはずです。
認知症ケアは、こういった納得してもらえるための関わりの繰り返しなのではないかと思います。