認知症介護をしている人にとって、認知症の方が突然外へ飛び出したり、食べ物でないものを口に入れたりする行動はとても困った行為として目に映ります。
また、そういった行為は本人にとっても危険があるため、目が離せず付きっきりで傍にいなければなりません。
付きっきりで傍にいるということは、介護者にとっては自分の時間をとられると感じてストレスになってしまいます。
認知症の方がそのような行動をとってしまう背景には、どのような理由があるのでしょうか?
認知症の人が困った行動をする理由
認知症の症状がどれだけ出るかというのは個人差があります。
俗に問題行動と呼ばれる行動は認知症の症状の中でも周辺症状(BPSD)といわれる症状です。
では、このBPSDが現れる方というのは、どういった方々なのでしょうか。
何か共通点はあるのでしょうか。
私が多くの認知症の方々と接してきて感じるのは、寂しさを感じている方が多いということです。
もちろん認知症の方の中にも、前向きに明るく暮らしている方もたくさんいます。
でもBPSDが現れる方は、過去に何か大切なものを失ってしまったり、今現在に大切なものと引き離されるような感覚になっていたり、何か大きなストレスを感じているように思います。
若いころは、「お父さん。」「お母さん。」と子供たちから頼りにされて、職場でもやりがいのある仕事があって、同僚からも信頼されていて・・・
元気な体と心があり、やりたいことがやれていた。
でも今は??
今まで簡単にできていたことが、年を取ってだんだんできなくなってきた。
自分は人の役に立てているのだろうか?
人に必要としてもらえているのだろうか?
本当は人から頼りにされたいし、自分が困った時は頼れる人が欲しい。。。
ずっと元気な体でいたい。
でもどんどんいろんなところが衰えていく。
忘れることも多くなって、人に注意されたり怒られたりすることもある。
自分が自分ではなくなっていくようで怖い。
人から嫌われてしまったようで悲しい。
そんな思いを抱え、ぽっかり空いてしまった穴を埋めようと、必死なのかもしれないです。
気持ちをうまく表現できなくて、いろんな行動に出てしまうのかもしれないです。
自分が必要とされていた時代に帰りたくて、「家に帰る。」と飛び出してしまうのかもしれません。
さみしい思いを満たそうとして、なんでも口に入れてしまうのかもしれません。
自分のことをわかってほしくて、イライラしてしまうのかもしれません。
行動だけをみて、関わるのが大変な人だと決めつけてしまっていませんか?
迷惑な行為をしていると、白い目で見ていませんか?
異食、徘徊、暴力・・・確かに介護者にとっては大変なことです。
でも本人は問題だなんて思っていません。
満たされない思いや葛藤を、どうにかしたいと思っている。
ただただツラくて、もがいているだけなんです。
困った行動はいつまで続くのか??
”介護者にとっての”困った行動は、そう長くは続きません。
ずっと続くかのように思える行動も、いつか終わりが来ます。
いつ?どんな形で終わりがくるのか??
それは本人の心が満足したとき、または心の葛藤が解決せずに認知症が深まったときです。
本人の心が満足したときというのは、自分を理解してくれる、受け止めてくれる人がいるということだったり、何かしらの役割があって自分が必要とされていると実感したときや、まだ自分はここにいていいのだと思えたときです。
満たされない思いを抱えながら家の中に一人でこもっていたり、狭い人間関係の中で過ごしていても改善しないことが多いです。
地域での集まりやデイサービスなどに参加して、新しい人間関係ができたときや、家事や仕事(作業)など役割ができたときに気持ちが穏やかになられることがあります。
また、家では家族を大変困らせていたのに、入居施設に入って他人と共同生活を送るようになって、BPSDが改善したケースもあります。
関わる人たちの接し方や、環境によって軽減する可能性のあるBPSDですが、どんなに頑張っても本人の心の穴を埋められない場合もあります。
だから、充分がんばっているのにも関わらず、一向に症状がよくならないことに対して、自分のせいだとは思わなくてもいいです。
一人で背負い込まずにいろんな人が関わって、それぞれがいろんな役割を担って接していけるといいと思います。
一人では考えつかないようなことが、いろんな人が集まれば発想も豊かになり、ケアのヒントも得られるかもしれません。
そして、周りの人たちの本人を想う気持ちは、ご本人にもきっと伝わっていると思います。
困った行動が落ちつくもう一つのケースは、認知症が深まった時です。
気持ちが満たされる前に認知症が深まり、より状況の判断ができなくなってしまって行動力も低下してしまった場合です。
行動というのは、体も心も比較的元気だからこそできるものです。
そして、現実に対しての葛藤を抱えられるだけの認識ができる段階にあるということです。
認知症が深まれば深まるほど、口数も減り行動も減少します。
眠る時間が増えてきて、一日中ウトウトとされることも増え、見方によっては穏やかになったと見えるかもしれません。
元気よく外に飛び出していた時期が懐かしく感じられることもあるかもしれません。
いずれにしてもどんな状態のその方も、その方に変わりありません。
その方の人生に思いをはせ、少しでも安心や心地よさを感じてもらえるように支えていけるといいなと思います。