介護施設にいる人々と介護職員の接し方
認知症の深まった方は、大声を上げたり、独り言を言ったり、歩き回って人の部屋に入ってしまったりすることがあります。
状況を理解したり判断したりすることが難しくなるため、その場の空気を読んだり、人の気持ちを察したりすることも難しくなります。
人がどうであろうが関係なく、我が道を行くという方が多くなります。
そんな方に対し、受け入れることができない、嫌悪感を感じてしまう、という人も少なくありません。
それは、他利用者だけでなく、職員も例外ではありません。
例えば、何度も大声で職員を呼ぶ方に対し、嫌な顔をしたり、ため息をついたり・・・。
転倒の危険性が高く、よく立ち上がる方に対し、「危ないから座っていてください!」と言ってしまったり・・・。
トイレに頻繁に行く方に対し、「さっきも行ったでしょ!」などと強い口調で言ってしまったり・・・。
その言葉や態度は目の前のご利用者に向けられたものであるのにも関わらず、周りで見ている別のご利用者にも届いています。
心も体もお元気なご利用者は、様々な感情でそういった状況を見ています。
自分もああいう風に(認知症に)なってしまうのかな・・・。
自分もそのうち職員からあんな風に(邪険に)扱われるのかな・・・。
自分も他人に迷惑をかけてしまうのかな・・・。など。
そして最も多いのが、「自分は正常、他人は異常」という見方。
ご利用者は職員の真似をする
職員が不満をもって、ある特定のご利用者に接していると、表情や言葉、態度に出てしまいます。
不満が大きければ大きいほど、態度にも強く表れます。
そしてそれを聞いたり見たりした他のご利用者は、
「あの人は職員さんに迷惑をかけている」
「あの人は頭がおかしい」
「あの人は悪い人だ」
という見方をし、そのご利用者に対し、注意をしたり攻撃的な目で見るようになってしまいます。
そして、きつく当たるようになる。
それがご利用者同士のトラブルに発展したり、全体の雰囲気にも影響するようになります。
介護施設は、ご利用者の性格や症状など、どのような方が利用するかによって雰囲気が変わるといわれていますが、実はそこで働いている職員によってその施設の雰囲気が決まります。
職員の性格や接遇の方が、雰囲気を作り出すのに、はるかに影響力が大きいといえます。
ご利用者に起こる心境の変化
例えば大声をあげる方に、他のご利用者が不満をもっていたとして
それでも職員がその方に謝りつつ、大声をあげる方に優しく接していると
初めは「甘やかしちゃダメよ。もっときつく叱らないと、あの人はわからないのよ!」と言っていたご利用者も、不思議と次第に受け入れてくださるようになります。
「あなたは優しいね。」
「あなたは本当によくやっているね。」
と、まずは職員のことを褒めて下さるようになり、そして、大声を上げている方にも優しい言葉をかけてくださるようになります。
100%受け入れるというところまでは行きつかないかもしれませんが、気にならない程度にはなります。
初めは「もう、ノイローゼになりそうだ!」と言っていた方がです。
どのような心境の変化があるかというと
「他人を受け入れない自分が間違っていたのかな??」と思うようになったり、
「他人のことを気にしてもしょうがない」と思うようになったり、
他人が大声をあげること、そしてそれを聞くことに、いい意味でも悪い意味でも慣れてきて気にならなくなったりするのです。
ストレスマネジメントと環境作り
いい環境であれば、ご利用者の気持ちは徐々に変化していきます。
しかし、不満や怒りが蔓延した状況では、そういった心境の変化は起きにくい。
だからこそ、職員の不満や怒りをまずは解消する必要があるのです。
また、その不満を抱えている方の心を満たす個別的なケアプランも必要です。
問題のある人をどうするのか?ではなく、そのままのその人がいられる環境を職員が作るということが大切だと思います。
それは、お互いの仲を取り持つということではなく、それぞれに必要な個別の関わりで、好きなことをしていただいたり、ストレスを解消していくことで、心が満たされ、他人のことが気にならなくなっていくということです。
職員も然り。
仕事で感じるストレスを、どう解消していくのかということに取り組む必要があります。
心が幸せいっぱいで満たされている時は、気持ちに余裕があり、比較的いろんなことを受け入れたり、許せたり、他人の行動や言動が気にならなくなるものです。
心に余裕がない時ほど、不満やイライラが強くなってしまいます。
どうすれば自分の心に余裕が持てるのか、少しでもいい気分(楽しい気分)でいられるのか、好きなこと、好きな物に触れる時間を生活の中に作ってみてはいかがでしょうか。
日常生活で(プライベートで)ストレス解消をしつつ、仕事で活用できる力を蓄えていきましょう。
ご利用者の性格や認知症の症状をコントロールしようと思っても難しい。
でも、職員はどんな介護現場を作りたいか、どんな雰囲気を作りたいかをみんなで話し合い、良くしていくための行動ができます。
それは、それぞれの介護現場によって異なります。
まずは職員のストレスマネジメントが必要なのかもしれませんし、職員同士の人間関係を良くしていくことが必要なのかもしれません。
認知症に対する理解を深めるスキルアップ研修が必要なのかもしれませんし、ケアプランの実践が必要なのかもしれません。
「こんな雰囲気になったら、もっといい現場になる」という目標を立てて、それを達成するためにできることから、少しずつ始めていきたいですね。