介護の入居施設、特にグループホームなどの小規模な施設などでは、新しく入居された方の個性によって、雰囲気がガラッと変わることがあります。
それまで平穏だったのが、大声をあげたり物を投げるなどの行為で、異様な雰囲気に変わってしまい、先に入居されていた方に混乱をきたしてしまうこともあるのです。
実際に、新規入居の方で大声を張り上げる方がいらして、あるご利用者から苦情が出たことがありました。
「ワシらのことはどうでもいいのか?ワシらのことも考えてくれ!
あいつ1人をとるのか、わしら8人をとるか、どっちだ!?」
などと言われてしまいました。
そういう場合は、、、謝り倒すしかありません。
介護職員)「すみません。本当に。。。すみません。」
入居者)「あんたが謝ることはない。別にあんたは悪くない。。。でも、なんとかしてくれ!」
この場合、介護職員としては、すぐに管理者に対応してもらおう!となりやすいのですが、入居者の言い分をすぐに管理者に伝えて対応してもらったとしても、手詰まりになりやすいことが多いです。
管理者から説得されて、「偉い人が言うならしょうがない・・・。」と、諦めて我慢しながら生活することになるか、大声を張り上げる方に、集団生活に適応できないと判断がくだり、退去の方向ですすめられるか・・・。
どちらの方にとっても、あまりいい方法とは言えません。
管理者が対応するのは、介護職員ではもうどうにも手の打ちようがない、最終手段。
その最終手段は、文字通り最後の最後までとっておかなければなりません。
(もちろん管理者に対して、一部始終の報告は必要です)
介護職員の中で、一番その人から信頼を得ている者、普段からその人の話をよく聞いている者が、まずはできる限りの対応をします。
「お前じゃ話にならん!」と言われてしまううちは、まだまだ信頼関係が築けていないということです。
だから普段から信頼関係を築くということが大事になってくるんですね。
その信頼関係は、ここぞ!というときに発揮されます。
その方は、大声を張り上げるご利用者に対して、丁寧に優しく接している職員の姿を見ていてくださり、
「むしろあんたたちは本当によくやっている。」と言って下さいました。
「でもな~、もう我慢の限界よ・・・」と胸の内をお話してくださいます。
そして時間をかけて、じっくりとお話を聴く。
また、ご家族も手伝ってくださり、ご本人に「人のことは気にするな」とお話してくださったり、気分転換になるような外出や、その方が熱中できる手作業などの準備もしてくださいました。
その方はお部屋で過ごすことが増えてきましたが、お部屋で工作をしたり絵を描いたりして、ご自分なりの楽しめる時間を過ごしていました。
そのうちに、その方の心境に変化が訪れました。
その方はいつも職員の動きをよく見ておられます。
職員が大声をあげるご利用者に優しく接すれば接するほど、その方を初め、周りの人の目は変わっていきました。
「最近あの人は変わってきた。
あんたがそばにおると安心しとる。顔が違う。
ワシらもあんたみたいに接しないといけなかったんだなぁ。。。」
その方は、少しずつ、苦手意識を持っていたご利用者にあいさつをしてくださるようになったのです。
時間の経過とともに、いい意味でも悪い意味でも、お互いの存在に慣れていきます。
しかし、大声をあげる方が、全く穏やかになったかというと、そうではありません。
大声をあげることが、その方の普通と捉えられるように、周りが変わってきたのです。
大声を張り上げていても、気にならなくなったし、逆におとなしい時は元気がないんじゃないかと心配するようになっていきました。
もしも、職員も一緒に「迷惑行為をしている人」という見方をしていたら、それは必ず他のご利用者にも伝わってしまいます。
「管理者はなんであんな人を入居させたんだろうね?」と一緒になって悪口を言っていたら、職員もご利用者も、不満はどんどん大きくなっていきます。
他のご利用者の前で、「うるさいですよ、他の方に迷惑がかかりますよ」と言っていたら、ご利用者も真似して「うるさいぞ!迷惑だぞ!」と言うようになるのです。
『職員を困らせる悪い人』というレッテルがその人に貼られてしまう。
しかし、逆に職員が丁寧に優しく接してれば、最初のうちは「甘やかしたらだめだ!もっと厳しく言わないと!」と言っていたのが、次第に優しさを真似してくださるようになります。
徐々に受け入れてくださるようになる。
そして、その人の存在が気にならなくなっていきます。
また、大声を張り上げていた本人も、人から優しくされたり、いつもそばに誰かがいることで、少しずつ安心感を取り戻し、心が落ち着いてきて、表情が柔らかくなったり、言動や行動に変化が現れてきます。
なぜ大声をあげるのか、その方の寂しさや葛藤など、心のケアを考えていかなければ、人は寄り付かなくなり、余計に寂しさが増していくのです。
そして、大声はさらに拡大していく。
介護現場ではなかなか難しいとされる、『ご利用者の隣に座って過ごす』ということを実践していけば、必ず人に変化は現れます。
「そばに誰かがいてくれる安心感、一人ではない安心感」この安心感を感じてもらうことができれば、心が少しずつ満たされていき、穏やかになるのです。
そしてそのうち、いつもそばに人がいなくても、平気になってくる。
すぐそば(隣)にはいないけれど、声が聞こえるとか、生活の音がするとか、そういったことでも安心感を得られるようになっていきます。
その場にいる人、関わる人みんなに、お互いに少しずつ心境の変化があって、新たなよりよい雰囲気を作り出していくことができるのではないかと思います。
それには、介護職員の役割が大きく影響していると考えています。