認知症と嗅覚の関係
アルツハイマー型認知症は、特殊なたんぱく質が脳細胞に蓄積し、脳が萎縮することで起こる病気です。
海馬という記憶を司る部分が障害を受けるため、軽度の物忘れから徐々に症状が進んでいきます。
認知症になると、初めに海馬が障害を受けるといわれてきたのですが、実は海馬よりも先に障害を受けている場所があるということが、近年研究者より報告されています。
それが、嗅覚です。
よく認知症の方の症状として、匂いがわからなくなるということがあげられますが、実は認知症になったから嗅覚が衰えるのではなく、物忘れの症状が表れる前に、嗅覚が障害されているということなんですね。
認知症は発症する何年も前から脳に変化が起こっていると言われていますが、脳神経の一つである嗅神経もまた、早い段階から変化が起こっているのです。
嗅覚の衰えが死を招く!?
アメリカの研究では、嗅覚が衰えた方は健常な方に比べて死亡リスクが3倍であるとの結果が出ています。
嗅覚の衰えは、そのこと自体が生命の危機となるものではないですが、からだに何か異変が起こっているサインであるともいえます。
【嗅覚の大切さ】現代人は嗅覚が衰えてきている!?
現代は視覚や聴覚からの情報が多く、特に若い方や都会に住んでいる方は情報過多の生活を送っています。
その結果、嗅覚よりも視覚や聴覚の方が優位に働いており、匂い(香り)を意識しない生活が続くことで、嗅覚が鈍感になり次第に衰えていってしまいます。
野生の動物などは、嗅覚を通して餌を見つけたり、生殖相手を見つけます。
敵の存在を嗅覚を通して察知し、瞬時に体が反応し、逃げ出します。
野生の動物は、嗅覚が衰えると生きていけなくなると言われています。
人間も、嗅覚が衰えることで、生きていくために必要な何かしらのバランスが崩れてしまうのかもしれません。
しかし、嗅覚は鍛えることができます。
脳には12対の神経があり、神経組織は一度障害を受けると再生はされないといわれてきましたが、嗅覚を司る嗅神経は再生されることが報告されています。
嗅覚を鍛えることで動物的な直感力が戻ったり、五感のバランスが整ったりするといわれています。
香りを嗅ぐことで、体にはどのような作用があるのか?
体への具体的な作用の前に、香りがどのように脳へ伝わるのかを先にご説明いたします。
香りが脳へ伝わるしくみ
脳には、本能の部分を司る大脳辺縁系と、思考の部分を司る大脳新皮質があります。
大脳辺縁系は本能(感覚的な部分)や自律神経、記憶などを司っています。
大脳新皮質は思考や情報処理、言語など知的な部分を司っています。
視覚や聴覚、触覚、味覚などはまず大脳新皮質へ伝わり、それがどのような感覚なのかを情報処理した後で、大脳辺縁系に伝わります。
しかし嗅覚だけは先に本能を司る大脳辺縁系に伝わり、その後に大脳新皮質に伝って、それがどのような匂いなのか情報の処理がなされるのです。
それはどういうことなのかというと、香りを嗅ぐと、考える間もないほど体が勝手に反応するということなのです。
大脳辺縁系には、快・不快を感じる扁桃体があり、安心や不安、恐怖、ストレスなどを感じます。
すると、その情報は自律神経の中枢である視床・視床下部へ伝わり、ホルモン分泌を調整したり、自律神経に作用したりします。
これらが香りを嗅いだとたんに働き出すので、一瞬で体の状態が変化するというわけなのです。
香りの情報は大脳辺縁系にわずか0.2秒で到達するといわれているので、本当に一瞬の間ですね。
香りが及ぼす体への作用
快・不快を感じる扁桃体は、いい香りを嗅ぐといい気分になります。
すると、自律神経にも働き、副交感神経が作用することによって、心が落ち着いたり体もリラックスします。
しかし、化学合成された人工的に作られた香りは、嗅ぎすぎたり合わなかったりすると頭痛や吐き気などを催すことがあるので注意が必要です。
アロマテラピーは、植物から抽出した100%天然のエッセンシャルオイル(精油)を使用します。
芳香浴を行う場合は、天然成分のものを使うようにしましょう。
精油の作用
精油の作用には様々なものがあり、植物や抽出された香りの成分によって作用が異なります。
心を落ち着けるリラックス作用のあるものや、逆にやる気を出させる作用のあるものもあります。
認知症にアロマテラピーが有効だといわれる理由
認知症の予防や改善に役立つアロマが人気となっています。
詳しくはこちら↓の記事をご参照ください。
研究により、精油自体の認知症への効能が報告されていますが、好きな香りの精油を選んで芳香浴を行っても十分認知症の方の心身にいい影響をもたらすと考えられます。
また香りの作用は記憶の想起や、海馬の再生にも役立っています。
嗅覚の鍛え方
アロマテラピーはとても香りの良い芳香浴ができます。
でも、好きな香りだからといって同じ匂いばかり続けて嗅いだり量が多すぎたりすると、嗅覚や脳が疲労することがありますので、違う香りのものも使ってみるようにしましょう。
部屋に入ったときは部屋の香りがわかっても、ずっとその部屋の中にいると匂いに慣れて、どんな匂いがしているのかわからなくなることがあると思います。
しかしそんなときでも、違う香りを嗅げば、それがどんな香りなのかをきちんと嗅ぎ分けることができます。
嗅覚には、新しい香りを嗅ぎ分ける機能があり、それを使っていくことも大切ですので、気分によって日替わり(週替わり)で、いろんな香りの芳香浴を楽しんでみてください。
長時間は行わず、1回20~30分程度を一日に2~3回行ったり、認知症アロマでは2時間程度の芳香浴が行われています。
また、視覚や聴覚による情報過多の現代では、まずは嗅覚に意識を向けることから始めてみてもいいかもしれません。
部屋の匂い、食べ物の匂い、窓を開けたときの風の匂い、おひさまの匂い、花壇の匂い、木の匂い・・・などなど。
嗅ぐことに意識を向けてみると、気がつかなかった匂いに気づけるようになります。
何の匂いか嗅ぎ分けることができるようになったり、匂いに敏感になってきます。
嗅覚が発達すると、他の五感のバランスも整ったり直観力が働くようになったりするので、その結果、生きる力が高まったりすることもあるのです。