認知症体験(研修)でわかった驚きの事実
認知症の人の気持ちを知ろう!という目的で、研修をしたことがあります。
介護施設に入居する認知症の方の気持ちを知るための研修だったのですが、まるで実験のように興味深い結果を目の当たりにしたのです。
研修内容は以下↓の通り。
普段介護をしている20代から60代までの女性約15人に、認知症の人たちがおかれている環境の体験をしていただきました。
ある部屋に入ってもらいます。
部屋に入る前に指令を出します。いくつか指令を用意して、それぞれ任務を遂行してくださいと伝えました。
ある人には「テーブルの上置いてあるお菓子を全て食べる」
またある人には「スプーンを見つけて部屋の中にいる人に渡す」などです。
研修参加者は初めはゲーム感覚の気分だったと思います。
ちなみに入ってもらった部屋の環境は
・カーテンを閉めて電気を消し、薄暗い。
・時計もないし、季節感を感じられるものもない。
・テレビやラジオが流れていてザワザワとうるさい。
・部屋の中にいる人(スタッフ役の人)は仮面をつけていて表情が見えない。
・テーブルの上にはお菓子やジュース、個人名(研修参加者名)が書いてある介護記録用紙が置いてある。
時間や季節や人がわからないように、認知症の人を取り巻く環境に似た状況を作りました。
参加者は指令だけ渡され、それ以外は何も知らないまま中に入り、それぞれ自分の任務を全うしようとします。
でも・・・部屋の中にいる人(スタッフ役の人)が全力でそれを阻みます。
テーブルの上のお菓子を食べようとすると・・・
「もう!勝手に食べちゃダメよ!」
スプーンを探そうとすると・・・
「引き出し開けちゃダメ!」
「歩き回らないで座っておいて!」
「どうしたの?トイレ?トイレに行こう!」といきなり強引にトイレ誘導をしてみたりします。
「行きたくない・・・」と言われても
「まぁまぁ、もうすぐご飯だから今のうちに行っとこ。」と連れていく。(部屋の中にトイレと見なしたスペースへ行く)
さらに、本人がいる前で「最近○○さんっておとなしいよね?いつもニコニコしててかわいいよね。」と噂してみたり、
「□□さんって、朝ごはんどれくらい食べた?」と大きな声で聞きながら介護記録に書く。
トイレ(と見なした場所)では「すいませ~ん、△△さんの紙パンツとズボン持ってきて~」と大きな声で言ってみる。
立ち上がろうとする人には「転んだら危ないから座っておいて。」と椅子に座らせる。
座っている人にいきなりお茶を渡して「はい、飲んで」と水分摂取を促す。
「お薬飲みましょうね~」と薬と見なしたラムネを有無も言わさず食べてもらう。
いわゆる介護現場で見られがちな「あるある」を大げさにやってみたのです。
研修を体験した人の反応は・・・
スタッフ役の人に対して抵抗する人もいれば、諦めて無言になる人がいたり、部屋から外に出ようとする人もいました。
中には状況を理解して、あえて利用者役を演じた人もいましたが、ほどんどの人が素の自分で、どうしたらいいのかがわからず、オロオロと不安そうにしていました。
研修後の感想として、
「自分がされてすごく嫌だった。こんな思いを自分もさせているのかと思ってショックだった」
「普段気をつけているつもりでも、無意識のうちに失礼なことをしてしまっていることがあるとわかった」
「逃げ出したい気分だった。こんなのが毎日続くなんて嫌だと思った。」
「やらなければならない(任務)と思ってやっていたことを止められて、怒られて…なんで??と思った。」
(認知症の人たちの行動にも理由があるのに、周りの人はそれを無意味な行動だとみなし、止めようとします)
「自分がここにいるのに、存在を無視されているかのようにスタッフ同士でのやりとり(うわさ話や大きな声で自分の名前を言われる場面)があって嫌だった。」などなど、それぞれ感じたことがあったようです。
さて、驚くべき結果とは??
素の自分で抵抗したり・・・
素の自分で諦めて、無言で人のいいなりになったり・・・
素の自分で部屋から外に出ようとしたり・・・
???
みんな・・・認知症じゃないよね?
そう、彼女たちは認知症ではありません。
それなのに、認知症の方々がするような行動をしたのです。
激しく拒否をしたり、自分の殻に閉じこもったり、出ていこうとしたり・・・。
将来みんながどんなおばあちゃんになるのかが垣間見れた瞬間でした。
認知症だからそういう行動をする・・・ではないんだなと、改めて感じた出来事でした。
環境(人や物も含む)が人をそうさせている。
そして、その環境をを受け止めるそれぞれの性格が、行動の要因に大きく関係しているのだと思います。
認知症だろうが認知症じゃなかろうが、感じる心と行動に大きな変化はないのだと思います。
状況がわからなければ戸惑い、不安になるし、困っているのに助けてもらえなかったら悲しい気持ちになるし、自分が一生懸命やろうとしていることを、誰かに止められると腹立たしい気持ちになる。
怒りたいし泣きたいし逃げ出したくなる。
認知症の症状の診断では、家を飛び出して行こうとする人を「問題行動あり」としてしまいますが、素直な感情、素直な行動なので、実は全く問題ではなく、むしろ人として正常な反応をしているというだけなんですね。