介護の仕事を始めたばかりの時は、苦手なことだらけ、怖いことだらけだと思います。
その中でも、『夜勤』というのは大きな試練です。
ワンフロアに二人で夜勤をする場合は、もう一人の先輩介護士さんと協力し合って夜勤ができるので心強いのですが、ワンフロアに一人で夜勤をする場合は、いくら別のフロアに先輩がいるとわかっていても、心細さを感じてしまいます。
介護の仕事は、だいたい一ヵ月間先輩についてOJTをしてもらい、独り立ちすることが多いので、夜勤も3回先輩についてもらうだけで、4回目からは独り立ちという形になります。
慣れないころは、「もう独り立ち!?絶対無理・・・」と思うのですが、腹をくくれば意外とできたりするものです。
しかし、ただ腹をくくればいいというものでもなく、夜勤をする上で気を付けなければならない点や見守りの仕方のコツなどを押さえていけば、より安全にうまく夜勤ができるようになり、不安の軽減にもなります。
今回は夜勤をするときの見守りのコツなどをご紹介したいと思います。
【介護の仕事】夜勤はなぜ怖い!?夜勤の不安が和らぐためのポイント
ご利用者の体調が急変したときなどは、日勤帯でも緊張が走りますが、特に夜勤中となると、その緊張は何倍にもなります。
それは、夜勤中に何か起こったら一人で対応しなければならないと考えてしまうからだと思います。
自分で判断して、自分で対応しなければならないと考えてしまうので、大きな責任を感じて、不安や恐怖感がより一層強くなってしまいます。
でも、夜勤者が全てを判断して、対応しなければならないわけではありません。
もちろん、その日の夜間勤務を担当している者として、起こった状況に対しての責任が伴ってくるのは事実です。
しかし、どこの介護施設でも、『緊急時の連絡体制』というものがあるはずです。
何か起こった時には、上司(または看護師)に連絡をして指示を仰ぎ、その指示に従って対応を行う体制が作られていると思います。
ですから、夜勤者が判断しなければならないのは、上司(または看護師)に連絡をして指示を仰ぐかどうかということ。
こんなことで連絡してもいいのかな・・・と悩むこともあると思いますが、確実に安全なのは『連絡する』ということです。
「連絡をしなかったために状況が悪化する」よりも、「連絡したけれど、結果的に何もなかった」の方が断然いいからです。
経験を積めば、状況に応じて自分でどのように対応すればいいのか判断したり、行動したりすることができるようになります。
ですので、もしかすると先輩介護職員さんは、よほどのことがない限りすぐには上司に連絡をせず、自分で判断して対応し、上司には翌日事後報告として伝えるというやり方をされている方も多いと思います。
そういったところからも、「自分で対応しなければいけない」とか、「些細なことで連絡していいのだろうか」と悩むかもしれませんが、充分に経験を積むまでは、遠慮せずに連絡をして指示を仰ぎましょう。
適切な判断や対応が自分でできるようになるまでには経験が必要です。
『迷ったら連絡!』です。
上司は新人さんの不安や恐怖をよくわかっています。
夜間対応の役割の一つとして、その不安や恐怖を軽減するために自分の存在があるというのもわかっています。
だから、夜勤前に「何かあったらすぐ連絡してもいいですか?」と一言了解を得ておくと、上司も今夜は連絡が来るかも、と心構えができます。
また、おそらく夜間対応をするのは、リーダーか看護師か相談員、管理者などだと思いますが、それ以外でも、ちょっと確認したいとか、ちょっと聞きたいとかいう時に、気軽に連絡できるような先輩をもっておくと心強いかもしれません。
一人でなんとかしようと考えずに、いろんな人に助けてもらうという気持ちで臨みましょう。
危険予測をしてシミュレーションをする
他職員と一緒に働くことができる日勤帯でも経験したことがないことを、一人で夜勤をしているときに初めて経験しなければならないこともあると思います。
そんなときに、こういう場合はどのように行動するのか、というシミュレーションをあらかじめしておくことはとても大切です。
もしもご利用者が転倒したら?
もしも熱が出たら?
もしも発作が起こったら?
など、ご利用者によって起こり得る状況を想定して、その時に自分はどのような行動をとればいいのかをシミュレーションしてみます。
想定外のことが起こるとどうしたらいいのかがわからずに、パニックになることもあるかもしれませんが、想定内のことであれば、突然のことに動揺はするかもしれませんが、なんとか対処することができると思います。
例えば転倒であれば、ご利用者に外傷や痛みがないかどうかを確認したり、どこを打ったのか、体は動かせる状態なのかどうか、バイタルはどうかなど、確認する点がたくさんあります。
転倒した!
(または転倒させてしまった!)
とショックを受け、気が動転してしまうかもしれませんが、起きた事実の中で、今自分ができることをやっていきましょう。
状況を確認したり、自分のとる行動というのは、上司または看護師に報告するときにも重要な情報となります。
自信がなければすぐに連絡をして、指示を仰ぐようにしましょう。
※事故防止に関しては、下記で詳しく記します。
緊急連絡体制を確認しておく
どのようなことが起こった時に、誰に何を伝えるのかを確認しておきます。
またすぐに連絡できるように、電話のそばに電話番号や伝えることの確認リストのようなものを置いておくと、いざというときに役立ちます。
夜間帯の見守りのコツ
夜間帯は一人での対応とるなることが多いので、ついつい介助の多い方にばかり関わってしまうということがあります。
比較的自立度の高い方や、よく休まれている方などは、安否確認がおろそかになってしまいがちです。
そこで、
『ついで確認』を行う。
あるご利用者の部屋へ行ったら、ついでにその通り道の他の方の部屋も確認してみる。
夜間は2時間以内に安否確認をする必要があるのですが、確認し忘れていた!ということがなくなります。
夜勤に慣れてくれば見守りや安否確認もスムーズに行うことができるのですが、慣れないうちは目の前のことをやるだけで精いっぱいなので、一つのことに集中しすぎて他のことが頭に入らなかったり、忘れてしまったりすることが多いと思います。
『ついで確認』を行えば、「そういえばあの人、何時間も姿見ていない。。。」ということがなくなります。
何か起こった時でも、早期発見ができます。
音に敏感になる
何か音がしたら、その音が何だったのかを必ず確認しましょう。
もしかすると、ご利用者がただ何か物を落としただけかもしれませんし、ただ大きな寝言を言っただけかもしれません。
でも、もしかすると、ベッドから転落しているかもしれませんし、体の苦しみに声を出されているかもしれません。
すぐに各部屋を確認すれば、ご利用者が安全なことを確認できたり、何かが起こった時でも早期発見をすることができます。
音に敏感になると、そのうちご利用者の足音なども聞き分けることができるようになります。
部屋の扉を開ける音や、足音などで、誰が起きてこられたのかがわかるようになります。
ご利用者の生活パターンの把握
夜勤を始めたばかりの頃は、ご利用者がそれぞれどのような動きをされるのかわからないことが多いと思いますが、夜勤を重ねていくと、大体の生活パターンが見えてきます。
部屋に帰られる時間、寝る時間や、トイレに行くタイミングなど、だいたいいつもこのぐらいの時間というのがわかってきます。
転倒や事故というのは、ご利用者が動き出される時に起こりやすいものなので、そういった生活パターンを把握することで、事故リスクの高い方の見守りがしやすくなります。
そうすると、「あの人が大体この時間に起きてくるから、その見守りが終わってから、別の人の部屋に訪室しよう」など、ケアが重ならないようにすることができます。
生活パターンを無視して、一人の人の部屋にこもっておむつ交換などをしていると、その間に別の方が起きてきたとしても見守りをすることができず、転倒事故などを防ぐことができないということがあります。
介助が重なった時はどうする!?
待てない方から優先に介助をさせてもらいましょう。
「すぐに来ますから、ちょっと待っていてくださいね。」と言っても、認知症の方は待ってはくれないこともあります。
待っていただくことが可能な方には、申し訳ないですが少し待っていただき、先に、待てない方から介助をさせていただきます。
離れても安全な状況を作ることができれば、もう一方の方の様子を見に行きます。
大変ではありますが、行ったり来たりを繰り返しながら見守りをします。
見守りの仕方を徹底的に先輩に聞いておく
ベテランの先輩の見守りは、無意識のうちにやっていることでも、事故防止の視点で見守りをしていることが多く、いろいろな工夫がされているはずです。
先輩の時には事故が起きないとか、ヒヤリハットで事なきを得たとかいうことがあると思います。
こういう場合はどうすればいいか、このご利用者がこんな行動をとられたらどうすればいいかなど、不安な状況の見守りの仕方を聞いて、それを真似することで、安全に見守りを行うことができます。
事故防止について
介護現場の事故には、転倒や誤薬、皮膚剥離など、さまざまなものがありますが、ここでは転倒について詳しくお話したいと思います。
転倒の危険性が高いというのはどこで判断する?
介護が必要になってから一度でも転んだことのある方は、転倒のリスクありとします。
介護施設に入居後、転倒したことのある方は、その転倒をした際の状況を分析し、事故防止策を考えて再発を防ぎます。
また、転倒したことはないけれど、最近ふらつきが多くなった、というのも、転倒リスクが高くなっていると言えます。
転倒される前には予兆があり、歩行時のふらつきが多くなります。
少しよろけてヒヤッとした場合などは、ヒヤリハットにあげて、そのヒヤリハットの数や状況次第では、見守りを強化するなど対応をしていくと、転倒事故に対して先手を打つことができます。
基本的に高齢者はみな転倒の危険性があると思っておいた方がいいのですが、夜勤をするときに、一度に全員を見守ることはできません。
目を離していても大丈夫な方かどうかという、ご本人の身体状況をよく把握しておきましょう。
自分では判断がつかない場合は、先輩に教えてもらいましょう。
どのような時に転倒のリスクが高まる?
今まで転倒をしたことのない方でも、急に転倒のリスクが高まることがあります。
どのような時かというと・・・
病院からの退院後
急な体調不良で入院されることがあると思いますが、短期間の入院生活でも、脚の筋力がかなり低下してしまうことがあり、それによって転倒されることがあります。
今日病院から退院された、という日に夜勤に入った場合は、転倒の危険性があると心構えをし、歩行の見守りをさせていただきましょう。
入院前のお元気なその方のイメージをもったまま夜勤をしていると危険です。
発熱などの体調不良時
体調が悪い時は、頭がボーっとしたり、足元のふらつきが多くなったりします。
人によっては、熱があっても自覚症状が全くないくらいに、いつもと様子が変わらない方もいらっしゃいますが、身体症状があるときには、見守りも強化します。
日勤者から体調不良の申し送りを受けた場合は、体調不良の緊張感だけでなく、転倒に関しても心得ておきましょう。
今まで転倒をされたことのない方でも、体調が悪いときは、体の状態がいつもとは違います。
ご本人がいつもの状態と違うのにも関わらず、見守りの仕方をいつもと同じにしていては、防げるものも防げなくなってしまいます。
ご本人の状態がいつもと違うということは、転倒の危険性があるということが予測可能であると言えるので、ご本人の状態に合わせて、自分の行動も変えていきましょう。
転倒の危険性が高い方の自室内での事故防止策
自室内でつたい歩きができるようにする
自室内での転倒は、ベッドからタンスの方へ移動したり、窓際やドアの方に移動する、というときに起こりやすいです。
自室内で移動されることが多く、以前にもそのような場面で転倒があった方などは、家具の配置を検討したり、安定している家具や椅子などを置き、背もたれなどをつたって安全に歩けるようにします。
歩くことを防ぐというより、安全に歩けるような環境を整えます。
ベッド下にマットを設置する
歩けない方でベッドを降りられる場合には、ベッドの下に衝撃吸収のマットを敷いて、ケガの防止をします。
ベッドからドスンと落ちるわけではないけれども、ずるずると滑り落ちるような形で、しりもちをついたり、ベッドの下に座っていることがあるという場合には、マットの使用で体を守ることができます。
歩行ができる方の場合には、かえってマットが歩行の妨げとなったり、転倒の危険性を高めてしまうことにもなるので、マットの使用は、ご本人の体の状態に合わせて、必要に応じて行いましょう。
ベッドからドスンと勢いよく落ちてしまう方には、ベッドから畳へと変更した方がいい場合もあります。
センサーを設置させていただく
転倒しやすい方には、センサーを使用すると、起きてこられた時にすぐにお部屋に伺うことができます。
認知症の方はコールをされないことが多く、ご自分で起きてトイレに行こうとされますが、寝起きは特に足元も不安定になり、転倒のリスクも高くなります。
普段は杖や歩行器を使われている方でも、夜中は忘れて、独歩で歩かれることもあります。
車いすを使用されている方が、夜中はつたい歩きをされることもあります。
身守りや一部介助などのお手伝いをさせていただくことができれば、転倒を防ぐことができます。
これもまた、歩くことや起きてこられることを抑制するのではなく、職員の見守りの元で安全に歩けるように支援します。
センサーには、触れて反応するマットタイプや、空間での人の動きに反応するタイプの物などがあります。
これらの対応をするときには、いずれもご家族への報告と承諾が必要です。
ご家族にこまめに報告、連絡をする(居室担当・リーダー・主任・相談員の仕事)
これは夜勤の仕事とは少し違いますが、ご家族に日頃の様子をこまめにお伝えすることが大切です。
ご本人の脚の筋力が弱まっていることや、歩行時のふらつきが増えてきていること、転倒の危険性が高くなっていること、また、それに対して職員がどのように対応しているのかなどを伝えます。
家族としては、施設に預けていれば安心と思っています。
何もお知らせをせずに、急に「転倒されました。」と報告をしても、「え?何で?」とびっくりされますし、不信感をもたれてしまいます。
こまめに日頃の様子や状況の報告をすることで、職員の大変さに共感してくださったり、一緒に対策を考えて下さるご家族もおられます。
「転んでもいいですよ。本人が動きたいんだから、それはしょうがないですよ。ご迷惑をおかけしますね。」と言って下さる方もおられ、このような言葉があると、職員として、ご本人を守るために『絶対に転倒を防ぐ!』という意気込みは変わらずとも、少しだけ気持ちがラクになりますよね。
職員だけではなく、ご家族も巻き込んで一緒に考え、悩み、喜怒哀楽を共有しながら、ご利用者を支えていきましょう。
それでも防げない事故もある
事故には防げる事故と防げない事故があります。
危険を予測して、あらかじめ対応できるものは防ぐことが可能ですが、「まさかそんな!」ということが起こります。
ましてや、夜間は一人で多数のご利用者の見守りをしなければならないので、目が行き届かないところがどうしてもでてきます。
自室で行われていることを終始把握することは困難です。
事故が起こると、夜勤者は自分を責めてしまいますが、夜勤者だけの責任ではなく、チームとして、また施設全体として、今後の対応を考えていく必要があります。
他スタッフも「自分が夜勤の時に起こったことではなくて良かった」ではなく、誰もが遭遇する可能性のある状況であることと認識し、どうすれば今後防ぐことができるのかを、みんなで考えていかなくてはなりません。
夜勤は不安に思うことも多いと思いますが、やるべきことを整理して、ひとつひとつ確実に丁寧にやっていけば、自分の責務は充分に果たせると思います。
全てを一人で背負い込もうとせずに、他職員を頼って、指南してもらいながら少しずつ経験を積んでいきましょう。