説得は『諦め』、納得は『受け入れる』という結果を招く
認知症の方と話をしていて、相手の抱いている事実とこちらの抱いている事実とが異なる場合、お互いに意見をぶつけ合って言い合いになってしまうことがあります。
介護者は相手の言い分を受け入れず、言葉巧みにどうにかして相手を丸め込んで、その場を切り抜けようとします。
でもそんなふうに否定したり説得したりしていては、相手の気持ちとしては諦めるしかないですよね。
その諦めは悲しさや怒りに変わったり、無気力に変わったりします。
もしかするとその場はなんとか切り抜けられるかもしれません。。。が、諦めにより、悲しさや怒りをたくさん経験したり無気力になることで、いつしか周辺症状(BPSD)として別の形で気持ちの葛藤を表現せざるを得なくなるかもしれません。
ただ、こちらの意向を伝えたとしても、認知症の方に納得してもらうのって結構難しいですよね。
本人の思いが強ければ強い程、納得していただくのは難しいと感じます。
でも納得してもらえれば強引に説得するよりは、少なくとも本人は嫌な気分ではなくなると思います。
抱えるストレスも少なくて済むのではないでしょうか。
認知症の人に納得してもらう方法とは?
①相手から聞き入れてもらいやすい人が伝える
認知症の人への接し方【タブー編】でも少しふれましたが、接点の少ない人に何か言われるよりも、より関係が近い人に言われた方がすんなり聞き入れられることがあります。
でも関係が近いといっても、本人から信頼されているかどうかが大切です。
いくら関係の近い人でも、『口うるさい人』とマイナスのイメージをもたれているのであれば、なかなか聞き入れてもらうことはできません。
一方、心を開いている人、好きな人の話というのは聞き入れやすい。
「あなたがそう言うのなら、そうしようか。。。」となりやすいです。
何を伝えるかよりも、もっと大切なことは、誰が伝えるのかということです。
介護職員でも、いつも職員として口うるさく管理しているのか、それとも、人として本人の力になろうとしているのかでは、本人の抱く感情や信頼度は変わってきます。
普段の関わり方が、いざというときに結果として出てきます。
ですので、あなたが本人にとってどのような存在なのか、どのように思われているのかを考えてみるといいかもしれません。
そして、日ごろからの関わりで信頼関係を作っていくことが何よりも大切です。
②一旦相手の思いを受け止め(受容し)、その上でこちらの提案を伝える。
相手の行動を受け止めるということは、簡単なようで実はなかなかできないことです。
なぜならこちらの思いが先立ってしまい、その結果相手の行動が間違っているように見えてしまうからです。
間違ったことに対して「いいよ。」と受け入れる際、人の心理状態として恐れや嫌悪感を抱いてしまいます。
自分が本来肯定していないことを肯定しなければいけないということは、自分の価値観を変えなければならないということです。
これはとても大変なことだとは思いますが、『受容する』ということが、認知症ケアの大きなカギとなります。
人は受け入れられたと感じた瞬間、安心感を覚えます。
どんなに間違った行動をしているように見えても、「大丈夫だよ。」と伝える。
どんなに理解し難いことを言われたとしても、「わかった。」とか、「そうだね。」と一言伝える。
その上でこちらの提案を伝えてみる。
「〇〇してよ。」「〇〇しなきゃダメよ。」「〇〇してはダメよ。」ではなく、あくまで提案。
「大丈夫ですよ。でも◎◎してみてもいいですか?」
「わかりました。でも△△の方がいいかもしれませんよ。」
「わかりました。それじゃぁ、どうしたいか教えてもらえますか?」などなど。
そうすれば、相手も自分の思いを伝えてくれます。
③第三者の存在を使って伝えたいことを伝える
面と向かってはなかなか聞き入れてくださらないときには、自分ではなく第三者の言葉として「あの人がこう言っていましたよ。」という伝え方をします。
例えば介護施設に入居されている方で、「家に帰りたい。」と言われた場合、
「そうですよねぇ、家が一番いいですよねぇ。」と、ご本人の気持ちを受け入れた後、
「でも娘さんが、お母さんが心配だって、ここなら私たちがいるから安心だって言われていましたよ。」
と伝えると、「まぁ、あの子がそんなこと言ってたの?」となり、納得されることがあります。
※娘さんのお名前を会話の中で使わせてもらっていいかどうかというのは、事前に了承を得ておきます。
ご本人が信頼している人の名前を出して、その人の言葉として伝えさせてもらったり、実際にその人から伝えてもらうこともあります。
ご家族や、病院の先生、お世話になっている方などのお名前を出させていただくと、納得されることが多いです。
また伝えるときのポイントは、ご本人の信頼している人を悪者にするのではなく、「心配している」とか、「こうしてくれたら嬉しい」とか、ご本人のことを想っている言葉として伝えます。
今の状況や、大切な人の言葉(もしくは介護者の言葉)を受け入れた方が、ご本人にメリットがあると思ってもらえるような言い方をすると、納得されやすいです。
認知症の人との話し合いの方法
「これをしてはダメ。」「あれをしてはダメ。」
「こうしてください。」「ああしてください。」
では、指示するばかりで話し合いにはなりません。
一方的な否定や指示ではなく、大切なのは提案と話し合い。
相手のことを一旦受け入れてから、その上でこちらの意向を提案してみる。
介護者)「わかりました。いいですよ。それじゃぁ、〇〇してみます??」
本人)「いいの?ありがとう。こうこうこうでね、こうしたいんだけど。」
介護者)「わかりました。でも、◎◎はできるけど、××はできません。私に協力できるのは、◎◎です。それでもいいですか?」
相手の思いを聞き、その中で自分が協力できそうなことと協力できそうにないことを考えてみる。
どの部分だったら妥協できるのか、自分の妥協点や相手の妥協点を探ってみる。
自分の考えを相手にわからせようとしたり、自分の意見だけを押し通そうとしても相手は受け入れてはくれません。
こちらが相手を受け入れていないのだから、相手も同じことです。
話し合いをする上で大切なのは、お互いに譲り合うこと。
意見が通る部分と通らない部分があるということを理解すること。
自分の意見が全く通らないよりも、少しは聞き入れてもらえるので、お互いに「ま、いっか。」という気持ちになります。
あくまで本人の味方であるという立ち位置で、しっかりとした自分の意見を伝えることと同時に、どこまでなら譲れるか、相手に協力できるかを考えてみると、お互いにとって良い形で話し合いに決着をつけることができると思います。