さっきトイレへ行ったばかりなのに、また「トイレへ行きたい。」と言われる認知症の方は少なくありません。
続けて行かれるために、実際トイレへ行ってももう出ないのにもかかわらず「行く。」と言われる方もいらっしゃいます。
そのような方にどのように接していけばいいのでしょうか?
トイレの訴えの多い人への接し方
接し方①
毎回トイレへ行く。
トイレ介助が必要な方が「トイレに行く。」と言われれば、介護者はお手伝いしなければいけませんよね。
だから、トイレの訴えが多いと大変だと思ってしまいます。
つい、「さっき行きましたよ。」なんて言ってしまいます。
でも本人の中ではトイレへ行った事実(記憶)はないので、「さっき行きましたよ~。」と言っても通用しません。
「いや、行ってない。」となります。
トイレに行ったことを覚えている方は、「また出そう。」と言われることもあります。
普通はトイレに行きたいときは、我慢せずに行きますよね?
もしもその方がトイレの介助が必要ない方であれば、自分で何度でも行くはずなんです。
でも、介助が必要だから、介助者の都合で止められてしまっているわけなんですね。
そして、介護をされる人は、介護をされることに慣れてしまっている。
だから、「トイレに行きたい。」と人にお願いするんです。
もしも介護をしてくれる人がいなくて一人だったら、どうにかしてでも自分でトイレに行こうとするはずです。
本当に行きたかったら、弱い足でも必死に立とうとするし、這ってでも行こうとすると思います。
それが「生きる」ための行為ですし、自分の生活を自分で営んでいるということです。
でもこれも、転倒のリスクが高いとかなんとかで、立ち上がったら「危ないから座ってて。」と介護者に止められてしまっていることがあります。
だから自分で動き出そうとしないし、トイレに連れて行ってもらうのを待ってしまっているんですね。
人に依存できる状態というのは、ある意味では心強いし安心できる状態ですが、ある意味では自分から行動するという意欲をそいでしまう状態であるともいえます。
手も足も全く動かない方であれば話は別ですが、自分で動く力があるのにも関わらず、1~10まで全てを介助してしまっているから、結局自分からは動けなくなるし、介助者は負担を感じてつらくなってしまうのではないかと思います。
「トイレに行きたい。」と言われたら、「いいですよ。どうぞ~。」と伝えて、動作を少し待ってみてはいかがでしょうか。
「難しいところは手伝うから、心配せずにトイレに行ってもいいですよ。」と伝えると、ご自分で動こうとされます。
サポートできる体制で待ってみると、普段車椅子を使用している方が、椅子からご自分で立ち上がられることもあるかもしれませんし、車椅子に座っている方が自分で車椅子を動かそうとされることもあります。
初めから全てを介助していたら見えなかったようなことが見えてきます。
自分で何かを成し遂げよう!というご本人の気持ちに、気づくことができます。
ただ注意しなければいけないのは、
「介助をするのが大変だから本人任せにする」と履き違えてしまう場合(人)もあるということです。
本来トイレに行くという行為はご本人の動作です。
そのご本人の動作や意思を尊重するようなサポートの仕方を普段から日常的にしていかなければ、この方法は意味をなさなくなってしまいます。
介護者の都合で全てを介助したり、トイレに行くのを止めたりしてはいけないのではないかと思っています。
また、「トイレに行きたいなら自分で行ってください。」というのは、言われた方からすると突き放されたような、意地悪をされているような感じにもとられます。
ですので、ご本人が自分で「よし!行こう!」と思えるような、気持ちに働きかけるプラスの伝え方をしていかなければなりません。
それは、トイレの介助だけでなく、日常生活における介助全般に言えることです。
そして、必要な部分は必ずサポートするという安心感や信頼関係が必要になってきます。
決して意地悪で言っているわけではないという、関係性やサポートの体制が必要になってきます。
でも結局はご自分ではできないことが多いので、介助はするし、トイレにも行きます。
結局毎回トイレに行くお手伝いをするので、ちょっと大変ではありますが、ご本人がトイレへ行きたいという気持ちに付き合っていきます。
あまりにもトイレの訴えが多いと、
この「トイレ、トイレ・・・」はずっと続くのか??と正直不安に思ってしまったり、何度も繰り返されると疲れてしまうかもしれませんが、この訴えはずっとは続きません。
このことについてはまた後ででご説明しますね。
接し方②
トイレに行って、便座に座っているのにも関わらず「トイレに行きたい。」と言われることもあります。
その場合は、その方の訴えの本質が「トイレに行きたい(おしっこがしたい)。」わけでなないということがわかります。
「トイレに行きたい。」と言われ実際にトイレに行ったあとに、散歩をしてみたり、お話をしたり、何かに集中できるようなゲームをしてみたりして気分転換を図ります。
一人で何かをしてもらうのではなく、必ず人と一緒に(できれば仲のいい人と一緒に)過ごしてもらいます。
実は「トイレ、トイレ・・・」と訴えが強い時は、身体的な不快感よりも、心の問題が大きく、切羽詰まっている状態で、表情も険しく気持ちもとても不安定な場合がほとんどなのです。
何が原因でそのような気持ちになったのかは、原因がわからない場合も多いのですが、この切羽詰った気持ちを少しでも変えることができれば、「トイレ、トイレ・・・」という訴えが止まることがあります。
その方が安心できるような場所に移動してみたり、少しの間スタッフがそばについてお話をしたりすると、ひょんなことから笑顔がみられることがあります。
相手が笑ってくれるというのはとても大切なことで、本人の気持ちがソワソワしていたりイライラしているときには、ご本人は自分のことで精一杯なので、なかなか人(介護者)の言うことが耳に入りません。
でも、気持ちが穏やかな状態というのは余裕があって、人の言うことを受け入れられる状態です。
相手が笑って返してくれるというのは気持ちが少しずつ落ち着きつつある状態だと言えます。
笑ってくださるのであれば、さらに笑いを引き出すようなことを言ったりやったりしてみると、気分がすっかり変わって、トイレの訴えが止まることがあります。
また。一緒に過ごしたりお話をするなかで、「トイレに行きたい」という言葉で表した訴えの本質(本当の気持ち)がわかってくることがあります。
接し方③
「何度もトイレに行きたい。」と訴えが続いた場合、正直に「さっきね、トイレに行ったんですよ。」と返してみる。
※嫌そうな顔や、「さっきのこと、もう忘れたの?」というようなニュアンスで言わないことがポイントです。
何か別の動作をしながらとか、あしらうような形で伝えるのではなく、その方のそばへ行き、しゃがんで目線を合わせ、穏やかな表情で真剣に伝えてみまます。
基本、相手の言動や行動を否定しないようにと接していきますが、相手との信頼関係が作れている(相手が信用してくれている)場合は、相手の言動や行動を遮って、事実を伝えてみてもいいと思うのです。
正直に「さっき、トイレに行ったんですよ。」と伝えてみると、「そう?まぁ、あんたがそういうんなら・・・」と聞き入れてくださることがあります。
信頼関係ができていると、この会話でトイレの訴えがあっさりと終わることがあります。
接し方④
「トイレに行きたい」という訴えは気持ちの問題が多いのですが、なかには本当に病気が関係していることもあります。
尿路感染や膀胱炎などで、頻尿になったり残尿感があったりすることもあるので、お医者さんに相談して病気かどうかを調べてもらい適切な処置をしてもらいましょう。
やってはいけない対応
病気ではないのに、「トイレに行きたい。」という訴えが頻繁にあるとき
してはいけないのは、その訴えを無視することです。
聞こえているのに聞こえていないふりをすること。
無視は存在そのものを『なし』にしてしまいます。
何か伝えたい気持ちがあるから「トイレに行きたい」という言葉で表しているのに、その訴えを無視するということは、相手からすると絶対にしてほしくないことなのです。
なぜ何度もトイレへ行きたいと言うのか?
「トイレへ行きたい」という訴えは、不安が強い時に言われることが多いように思います。
その時の本人の表情は、不安そうでソワソワしていて、時に怒りながら、どうしたらいいのかがわからないというような、なんとも言えない表情をされていることがあります。
その不安を「トイレに行きたい。」という言葉で表しているし、実際に排尿もある。
緊張したときにトイレが近くなる人は認知症の方でなくてもいらっしゃると思います。
気持ちが落ち着かない時にトイレに行きたくなる人は多いのではないでしょうか。
また、一人でさみしくしているときに、人の気をひこうとしていたり何か要望を聞いてほしい時に「トイレに行きたい。」と言われることもあります。
「ちょっと来て。」と言っても「ちょっと待ってね。」と言われるのがわかっているから、「トイレへ行きたい。」と言う。
「トイレに行きたい。」と言えば来てくれると思っているんですね。
他にはこんな理由もあります。
・失敗するのが怖いから、失敗しないようにと頻繁にトイレへ行く。
・排便がありそうでなかなか出ない場合、便が膀胱を圧迫しているためにおしっこがしたいような気持ちになる。
・病気のために頻尿になったり残尿感がある。
「トイレに行きたい」はずっとは続かない
「トイレに行きたい」と言われ、さっきお手伝いしたばかりなのに、また「行きたい。」と言われる。
その都度お手伝いはしているが、数分おきのトイレは正直とても大変で、いったいいつまでこの訴えは続くのだろう??と悩んでいる方も多いと思います。
不安が原因で起こる訴えは、その不安が解消されれば訴えもなくなります。
そのためには、その方が今何に不安を抱いているのかを知る必要があります。
その方にとって必要なものは何なのかを考える必要があります。
トイレに行くお手伝いと同時に、生活全般を見直して適切なサポートをする必要があります。
接し方①で少しお伝えした、人に頼んだら何でもしてもらえる状況よりも、自分で行動を起こすという自主性や、自分の意思で何かをするといったことが、「生きる」ということの充実感につながることもあります。
だから聞こえないふりして無視したり、「はいはい、トイレはさっき行ったでしょ!」と適当にあしらっていては、気持ちは満たされず、不安は強くなる一方なのです。
これは個人的な感想ですが
「トイレに行きたい。」という訴えで、試されているのではないかと感じることがあります。
「私の気持ちにどこまで応えられる?」と言われているような気がするのです。
支援し続けると必ず良好な関係性が築けます。
そして、穏やかな日々を過ごすことができるようになります。