前回の記事→本人の希望と解決すべき課題が異なる場合の考え方 をまだ読んでいない方は、まずはそちらからどうぞ。
今日はその続きです。
まずは前回の例題のおさらいから。
(例題)
「食べるのが大好き、甘いものが大好き」という人がいます。
その人は糖尿病を患っていて、血糖値が高いことを病院の先生から指摘され、食事の管理が必要になりました。
本人の希望は「自分は甘いものが大好きで、死んでもいいから食べたいだけ食べたい!」と言っている。
解決すべき問題は、このまま食べたいだけ食べる生活を続けていくと、糖尿病が悪化して合併症を引き起こす危険性がある。
本人の希望を優先すべきか、解決すべき課題を優先すべきかというところで、本人と話し合いを重ねるうちに、いくつか見えてきたことがありました。
今一番の楽しみは食べること。⇒裏を返せば他に生活の中に楽しみなことがない
好きなものは甘いもの。でも実は他にも好きなものがある。それは孫で、孫の花嫁姿を見たいと思っている。⇒生きていたい。本当は死にたいとは思っていない。
実際には話し合いを重ねると、もっともっとたくさんの情報を得られると思いますが、今回は例題なのでこの二つの情報をヒントに、ケアプランを立ててみたいと思います。
【解決すべき課題】
糖尿病のため血糖値が高く、食事制限をしなければならない
このまま放っておくと悪化して将来合併症を引き起こす危険性がある
⇒糖尿病を悪化させないためには、大好きな甘いものを控えなければならない
【本人の希望】
甘いもの大好き、食べたいだけ食べたい
だけど、早死にはしたくない、家族と別れるのはつらい、特に孫の成長は見届けたい(花嫁姿を見たい)
⇒甘いものは食べたいけど、孫の花嫁姿を見るまでは生きていたい。
孫と会いたい、孫の成長を見届けたい
<ケアプラン1>
⇒お菓子を食べる頻度を徐々に減らしていく
「今日からお菓子は一切食べてはいけません。」というのは、甘いものが大好きな人にとってはとても酷な話です。
医療の場では、徹底して「お菓子は今日から一切食べてはいけません!」となることが多いと思いますが、病院と違って生活を支える場では、ご本人のなかで治療という認識がしにくいということもあります。
いままで好きだったものをいきなり禁止すると、それこそ大好きなものを奪われて死にたくなってしまいます。
糖尿病の怖さなどをお話して理解していただける方であれば、比較的簡単に食事療法ができるのですが、食べ物に対して執着が強い方であれば話し合いを重ねながら徐々に食事療法を行っていきます。
高齢者であれば、今更我慢してまで長生きしても・・・と考えるのは自然なことだと思います。
だからご本人と話し合いを行い、今後どのようにしていくのかということを決めていきます。
決めるのは介護者ではなく、あくまでご本人です。
毎日お菓子を食べていたのを、2日に1回にしよう!とか3日に1回にしよう!とか、一週間に1回にしよう!などということを、ご本人から言ってもらえるように、話し合いをすすめていきます。
そのようにして、甘いものを食べることを徐々に減らしていきます。
また、血液検査の結果を本人と一緒に見たり、グラフを作ったりしながら変化を一緒に確認し、がんばった成果を喜び合う
我慢するばかりでは生きることに嫌気がさすので、気持ちのメリハリをつけるために、お菓子を食べる日と我慢する日を作る
<ケアプラン2>
⇒「食べることが唯一の楽しみ」である現状から、食べること以外での楽しみが見つけられるように働きかける
もともとの趣味からヒント得たり、新しく何かをやってみる
やってみてどうだったか表情や行動、反応をみて、次の働きかけを考える
<ケアプラン3>
⇒家族(孫)と一緒に過ごす時間を作る
⇒家族(孫)と一緒に旅行をする
この日(旅行日)を元気に迎えられるように日々健康管理を意識してもらえるようにする
3ヵ月先、6ヵ月先のわくわくするような長期的な目標を立て、生きる目的を失わないようにする
また、ドクターにもう一度相談してみることも必要です。
ご本人の意向(食事やお菓子が楽しみであること)を伝えると、意外に「薬を変更して様子をみよう。」となることもあるからです。
血糖値が高いということだけで判断されるのではなく、高齢であるという年齢や他の数値や症状など総合的に見て判断されたりするので、場合によっては薬を変更することで、少しぐらいなら食べてもいいと許可が下りることもあります。
ただ、これはドクターによると思うので、患者さんの症状だけではなく生活や人生を見て考えて下さる先生と出会えるといいですね。
食事に関する問題を解決するために必要なこと
ごはんを食べ過ぎる認知症の人への接し方でもお伝えしたのですが、食に関する問題というのは、精神的な要因も関係している場合があります。
もともと大食いであるとか、甘いものが好きという方もいらっしゃるとは思いますが、精神的な寂しさ等を紛らわすために甘いものに依存していたり、たくさん食べることに依存的になっている方もいらっしゃるのです。
そういった方には、食事の面だけどうにか管理しようと思っても、余計にストレスを感じてイライラしたり別の形で症状が出る場合もあります。
ですので、食事管理だけに力を入れるのではなく、食事以外で得られる『心の充実』を目指してケアプランを立てた方が、結果的に食事管理(療法)が行いやすくなります。
脳疲労解消法(BOOCS法)を提唱された藤野先生によると、「脳の疲労を取ると五感が正常化する。その結果、薄味・少量で満足する身体になる。」とのことです。
BOOCS法についての詳しい内容はこちら↓の記事をお読みください。
問題を解決した先の生活を考える
問題解決型のプランを立てる場合、問題を解決した先にどのような生活が待っているのかを考える必要があります。
糖尿病の悪化を防ぐ⇒健康になる⇒健康になった場合の生活は??何か楽しいことでもあるの??
何のために健康になってもらうのか?健康になった先にどんな生活を送ってもらうのか?
問題を解決すること(糖尿病の悪化を防ぐこと)が目的になってしまうと、本人はちっとも面白くありません。
ただただ好きなこと(甘いものを食べること)を我慢しているだけです。
好きなことを我慢してでも代わりに得たいもの(楽しみ)があるのかどうか?
ここで目標達成型の考え方が出てきます。
本人のやりたいことや希望を目標にして、どうすればそれが達成できるのかを考えていく。
目標を達成するために、日々生じる問題を解決していくという考え方ができるといいですね。(目標達成型+課題解決型)
目先のこと(問題)にとらわれず、その人の生活や人生を意識して関わっていけるといいと思います。
本人の意向に沿って、本人のことを思って立てたプランに間違いはありません。
もしも間違いがあるとするならば、それは本人の意向を無視してスタッフの一方的な考えで立てたプランです。
本人と相談しながら、自由に楽しくケアプランを立ててみましょう!