認知症の方にとって、大切なのは”今、この時”です。
認知症の方の気持ちは、何かのきっかけで急にコロっと変わることがあります。(何かに対して強いこだわりをもっているときには、なかなかご本人の抱いている世界が変わらない場合もありますが。。。)
今この瞬間、何かがとても気になっていて、心が落ち着かなかったり、イライラしていたり・・・。
イライラしていたかと思えば、急に穏やかな表情になり、笑顔を見せて下さったり・・・。
時間が経てば気持ちが変わる(出来事や思いを忘れる)ため、あえて少し時間を置いたり、距離をとったりする場合もあります。
でも、時間を置いたりご本人と距離をとったりするだけでは、根本的な解決(不安やこだわりの解消や欲求を満たすこと)には至らない場合がほとんどです。
その場は気分が変わるかもしれませんが、ご本人の満たされない思いというのは、日々積み重なっていきます。
「認知症の人は、せっかく何かをしてもどうせ忘れるから」という気持ちで適当な接し方をせずに、『その方の”今”に向き合っていく』という姿勢で接していけば、いろんな出来事を忘れていってしまう認知症の方とでも深い信頼関係を築くことができますし、気持ちが満たされて安定することで、生活動作においてもできることが増えていく場合があります。
”今”が満たされるその満足感は、日々積み重なって、継続されるようになります。
そしてそれは、人に対しての信頼になり、現在の状況を受け入れ始めるきっかけにもなります。
認知症の方の今に向き合う方法とは?
どうすればその方の今に向き合えるのかというと、その方から発せられる言葉や表情に敏感になることです。
それは、日常生活のちょっとした会話の中に存在しています。
よく、ケアプランを作成するときに、担当職員さんから「〇〇さんにやりたいことはないかと聞いてみたんですけど、『特にない』って言われるんですよ~。」という悩みを聞くことがあります。
「何かないか?」と改めて聞かれると、「特にない。」と答える。
これはお年寄りさんに限らず、よっぽど何かない限り、誰だって急には答えにくい質問だと思います。
だけど、普段生活している日常の中では、人は常に何かを考えています。
「洗濯をしなきゃ」とか、「ごはんを作らなきゃ」とか、何時に「仕事に行かなきゃ」とか、「コーヒーのみたいな」とか、「お風呂にゆっくり浸かりたい」とか「新しい洋服が欲しいな」とか・・・
自分がやるべきことだったり、やりたいことだったり、常にそういったものがあって、私たちは行動しています。
一日中椅子に座ってテレビを見ているようにみえる高齢者の方々も、欲求や衝動はあります。
でも職員にとって、その高齢者の欲求や衝動は手のかかる(仕事が増える)都合の悪いことだったりします。
職員にとっては、ご利用者がテレビを見て座っていてくれる方がラクだったりするからです。
でも、本当にやるべきことは、ご利用者の”今”に向き合っていくこと。
そのためには、ご利用者のそばにいて、表情を見たり会話をしたりしなければ、今その方が何を求めているのかがわかりません。
ご利用者が立ち上がって歩こうとされるときに、「どうされました?」「どこへ行くんですか?」と、いちいち駆け寄って聞くのではなく、何も言わずに見守ってみる。
何かをしようとされる動きを邪魔しない。
前回の記事(ご利用者を応援する介護)で、食器を持ち歩く方のお話をしましたが、
食後に食器を持って「流しにもっていかないといけない、洗わないといけない。」と言われる方(認知症で、1分前のことでも忘れてしまう方)に食器をキッチンまで持って行っていただくと、「洗いましょうか?」と言われ、やっていただいたところ、とてもきれいに洗われたということがありました。
しかしその後、食器洗いがその方の役割として毎日の日課になったかというと、そうではありません。
その方が、『やりたい!』『自分がやらなければ!』と感じたそのときだけ。
”今、この瞬間”その方が何を感じているのかによって、過ごし方は日々変わっていきます。
昨日と今日が連動していなくてもいい。
昨日した行動と今日の行動(ご利用者の行動)が全く違っていてもいい。
だけど、職員は一貫して、その方の”今、この瞬間”に常に応えていく。
そういった職員の関わりは、日々積み重なっていきます。
それは、ご利用者にとって、安心感や居心地の良さにつながります。
言葉の中に潜む思い
ご利用者との会話の中に何度も出てくるキーワードがあります。
例えば、「帰らなきゃいけない。どこから出られるのか?」など。
いつでもどんな時も要望に応えられるわけではないのですが、「帰ることができない。」とか「出られない。」と説得するのではなく、その方が出口を探すのに付き合ってみたり、その方の言われる通りに動いてみると、意外にあっさりと納得されることがあります。
実際に出かけてみて、何時間も一緒に歩き続けなければ納得されない方もいれば、出かける準備をした段階で、「迷惑かけるから、出かけるのやめとこうか・・・。」と言われる方もいます。
職員がご利用者の『行動を止める』動きをしていては、その先にどのようなことが起こるのかを知ることができません。
とりあえずやってみる。ことが大切なのではないかと思います。
実際出かけることができなかったとしても、その方のお話に耳を傾けることはできるはずです。
真剣に向き合っていけば、それは即、関係性に影響します。
「いつも親身になってくれる人。自分のことをよく知ってくれている人。」そのように思っていただくことができれば、『あなたなら』と心を許してくださり、時に介護職員としての意見に耳を傾けてくださったり、一緒にお風呂に入ることを許してくださったりします。
『どうすればこの人(ご利用者)の気持ちに応えられるだろうか?』を考えていくと、言葉のかけ方が変わってきたり、自分の行動が変わってきます。
職員都合の行動で接していては見えない世界があります。
ご利用者の要望に付き合ってみると、どんなことが起こるかわからない。
特に初めての場合は、想像の範囲を超える未知の領域かもしれません。
だけど、ご利用者のいきいきとした表情を見ることができるかもしれません。
納得したり、共感したり、心のつながりが生まれるかもしれません。
そういった関わり方もまた、介護の楽しさなのではないかと思います。