”今”に応える介護とは?という記事では、認知症の方にとって大切なのは、”今、この瞬間”の想いであるというお話をしました。
今回は、職員の都合で、ご利用者の気持ちをなかったことにしてしまうことがあるという事例についてお話したいと思います。
ご利用者の気持ちと職員の都合
あるご利用者が入ったばかりの新人職員に対し、「私がお茶をたててあげましょう」と言われました。
それは昼食の準備をしている忙しい時間帯のことでした。
昼食の準備をしている別の職員(先輩職員)は、その方におかずの盛り付けを頼みたいと思っていました。
先輩職員の正直な気持ちとしては、(お茶は後でいいから、おかずの盛り付けをしてほしい。。。)
そんな思いから、「もうすぐお昼ご飯だから、お茶はまた後でお願いします。それよりも、おかずの盛り付けを手伝っていただいてもいいですか?」と声をかけてしまいます。
ご利用者にお茶をたててもらうということは、
お茶をたててもらうための準備、見守り、後片付け(洗い物が増える)など、職員としては手間が増えます。
業務を優先している職員は、業務ではないことを余計なことだと感じている人もいます。
しかし、介護とはご利用者の自己実現をお手伝いする仕事。
そのためには、いかに手間をかけてご利用者と接するかというところにあると思います。
「お茶をたててあげましょう。」と言ってくださった方が、そのときにやりたかったことはおかずの盛り付けではなく、特定の職員(新人職員)にお茶をたててあげることだったはず。
先輩職員が遮って「お茶は後で・・・」と言ってしまうと、新人職員もそれに逆らうことはなかなかできません。
ご利用者は、おかずの盛り付けをお願いすると快く引き受けてくださる優しい方です。
しかし、先におかずの盛り付けをしたその方は、おかずの盛り付けをしている間にお茶をたててあげようという気持ちは薄れ(忘れてしまい)、その方がその時に感じた「これをしたい!」という思いや提案、新人職員に対しての気遣いの気持ちはなかったことになってしまいました。
おかずの盛り付けをしても、その方は職員に感謝はされます。
職員もとても助かります。
でも、その方が本当にやりたかったことは実現しませんでした。
約束ができるときと、できないとき
まだしっかりと覚えていらっしゃる方であれば、本当に後で(食後やおやつの時間にでも)約束をしてお茶をたてていただくことはできるかもしれませんが、その時に思いついた自分の考えや出来事(約束)を忘れてしまわれる方にとっては、”今、この瞬間”の気持ちに応えていくことがとても大切だと感じます。
職員の都合で、ご利用者の希望や要望をなかったことにするのは、とても簡単にできてしまうこと。
日常生活のなかで起こる、こんな些細な出来事でさえも、ご利用者の気持ちに応えられないのであれば、ケアプランのアセスメントの際にご利用者に聞く希望や要望に、一体何の意味があるのだろうか・・・とも思います。
ケアプランを作成するときに限って、改めて「何かやりたいことは?」と聞いても「何もない。」と言われるような方が、日常ではご自分から何かを提案してくださったり、やりたいと表明されることがある。
それでも、こういった意思表示は稀なことが多く、貴重です。
貴重な提案・要望だからこそ、なかったことにしてはいけないと思います。
日中、数名いる職員で役割を話し合いながら、日常の些細な出来事を通して、ご利用者のやりたいことが実現できるようにしていけるといいですね。