介護の仕事で矛盾を感じるときというのは、いったい誰のための、何のための介護をしているのか?という状況に直面したときだと思います。
例えば、食事介助。
ご本人は「もういらない。」と言っているのに、「もうちょっと、もうちょっとだけ食べてみて。」とがんばる。
水分摂取は大切だからと、飲みたくもない水分を半強制的に勧める。
例えば、入浴介助。
ご本人は「入らない。」と言っているのに、「入りましょう!」と強引に誘う。
特にデイサービスなどでは、「今日入って帰ってもらわないとご家族に怒られるから。」なんて理由で入ってもらったりする。
本人をその気にさせたりするなど、介助のやり方にもよるとは思いますが、ご本人が気乗りしないことを、どうにかこうにか、がんばらなければならない状況があります。
本当にご本人のためになっているのか、疑問や矛盾を感じたり悩んだりすることも多いと思います。
「~しなければならない」が介護職員を苦しめている
食事は全量食べてもらわなければいけない。
水分はしっかり摂ってもらわなければいけない。
体を動かしてもらわなければいけない。
歩いてもらわなければいけない。
着替えてもらわなければいけない。
お風呂に入ってもらわなければいけない。
「~しなければいけない」はご本人の要望に応えて行っているというよりも、やらなければならない義務や責務です。
ご本人が「もういい。」と言っているのにもかかわらず、がんばらなければいけない。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
一つは、ご家族の要望
ご家族から、「このようにしてください。」と言われれば、介護職員はその要望に従います。
ご家族からの要望が、ご本人のためになっていない場合は、日々のご本人の様子やご本人の気持ちを代弁して、伝えることもありますが、ご家族の要望に特別異論がない場合は、意向として受けとり実践します。
ご家族の中には、「本人の好きなようにさせてやってください。」と言われる方も多いのですが、やはり家族なので、元気でいてほしいという願いを根底にもっていらっしゃいます。
ごはんを食べなくなると気になるし、お風呂に入りたがらないと気になります。
「なんとか食べられるように工夫してください。」とか、「お風呂に入れてきれいにしてやってください。」と言われるようになります。
仕事としてやっているので、「プロなんだからできる」と思われるのは仕方のないことだとは思いますが、介護職員がなんでもうまくできるわけではありません。
人相手のお仕事なので、介護職員の思うようにはいかないことだらけです。
ケアマネや相談員、管理者等が、ご家族に現在の状況を伝え、無理強いしない介護をするために、ご本人との関係作りやどのような工夫をしているかなどをお話し、現状や今後に向けてのご理解をいただくのですが、ご家族からの要望があると、焦る介護職員も出てきます。
また介護職員だけでなく、窓口となっているケアマネや相談員自身が焦りを感じて、介護職員に「しっかりと~するようにしてください。」と結果だけを求めるような指示を出してしまうこともあります。
そして、ご家族や上司から何か言われてはいけないからと、半ば強引に介助をしてしまうこともあるのです。
まさに、「~しなければならない」というしがらみにはまってしまうというわけです。
もう一つは、介護職員という専門家としての行為
水分や栄養をとらなければ、今後どうなっていくか先がわかってしまうから、水分や栄養をとった方がいいという判断や決断をしてしまう。
また、大切な人に少しでも元気でいてもらいたいという思いもある。
だから、『お願いだから、ちょっとでも食べて』という気持ちで介助をしてしまいます。
そして、仕事としてやらなければならないという義務や意地もある。
食事を全量食べてもらうことが正しいという価値観をもっていたり、全量食べてもらうことで「食事介助がうまい=仕事ができる人」とみなされるというステータスのようなものもあるかもしれません。
本人の気持ちを優先している介護職員は、決して無理強いはしません。
食事も水分摂取も、「もういい。」と言われた時点でやめます。
そうすると、同僚からは「やるべきことをやらない」と疎まれてしまう。
「諦めが早い。」とか、「もっとじっくり関われば食べてくれるのに。」などと言われてしまいます。
確かに、同僚の言っていることは間違いではありません。
介助をする人が変われば食べて下さることもありますし、声のかけ方次第で食べて下さることもあります。
人が変われば食べて下さるというのは、その人だからできることであって、他の人では変わりがききません。
※これは「存在的ケア」というのですが、また別の機会にお話します。
「その人だから」という『その人』をみんなが目指していくことは大切ですが、みんなができてあたり前ではないのです。
やりたくないことをやっているから、介護が面白くなくなる
人と関わることが好き。
人を応援することが好き。
そんな気持ちで介護の仕事を始めた人は、ご利用者本人の希望に沿わないことを自分がしなければならないということがとても辛くなります。
本当に本人のためになっているのか?という疑問を感じながら仕事をしていると、どんどん悩みが深くなってきます。
本人の気持ちに変化をもたらすことができたら、それはやりがいに変わることもありますが、純粋に本人の気持ちに沿ったケアができればいいのに・・・と考えたりもします。
それは、専門家から言わせると、極めて専門的ではないのかもしれません。
ただただ、人として気持ちを尊重すると、専門的なケアではなくなってしまうのかもしれません。
介護の仕事とはいったい何だろう・・・?
専門的なケアとはいったい何だろう・・・?
介護で大切なことはいったい何?
水分をとりましょう。
栄養をとりましょう。
体を動かしましょう。
便秘を解消しましょう。
認知症予防。
寝たきり予防。
管理をすれば、それなりに元気でいることは可能です。
問題は、それをご本人が望んでいるかどうか。
介護はご本人の問題だけではなく、周りの人にとっても大きく影響するものであるというのはわかります。
時には管理が必要なことも確かにある。
でも、どんな形でも、ご本人の人生を応援するのが介護職員の役割です。
一にご本人の希望。
二にご家族や周りの人たちの希望。 だと思っています。
ご本人の気持ちが最優先されるべきだと思っています。